ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのセカンド・アルバムはデビュー作とはがらりと趣きを変えています。アンディ・ウォーホールと袂を分かち、アンディに押し付けられたニコとも別れて、バンドの素の姿がさらけ出されました。

 間章は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは「さまざまの背反とアンビヴァレンスとネガティヴィティと異なるダイナミズムを内に含んだあらゆる逆理と矛盾のままのひとつの有機体」だったと書いています。

 「何よりも醒めたカオスであった。他のどこにも見つけられないような『ひとつの廃墟』だった。『あらかじめ破壊したロック・バンド』」でした。「肉体と感性の錬金術師たち」であり、「闇の堕天使たち」です。

 間のこの言葉はこのセカンドと次のサードにこそふさわしいです。実際、「この二枚のレコードはまさにお前たちの架刑の残したものであり、お前たちの本質を明かす『寒々しく』『毒に満ちた』レコードであり、お前たちの旅のもっとも深みを教えるものである」と書いています。

 こうしたヴェルヴェッツに係わる言説を耳にした者が、それを実感するのがこのアルバムです。全6曲のすべてがアヴァンギャルドな趣きをもっており、とりわけアルバムの最後を飾る17分半の大作「シスター・レイ」の破壊力は抜群です。

 ジョイ・ディヴィジョンなどにカバーされた「シスター・レイ」は混沌とした演奏が延々と続くヘヴィな曲です。まるであの世で演奏されているかのような音楽ですが、聴いているうちに身が軽くなるような気がするところが素敵です。

 「ザ・ギフト」はポエトリー・リーディングとファンキーな演奏を左右のチャンネルに振り分けた実験色の強い楽曲ですし、ルー・リードらしいタイトル曲や「アイ・ハード・ハー・コール・マイ・ネーム」もアレンジがかなりいっちゃっています。

 録音はわずかに1日で終わったという伝説が残っています。大げさなんでしょうが、何日もかけたわけではなさそうです。才能が認められないフラストレーションのただ中にあって、演奏は破壊力を増していたのでしょう。

 ルー・リードとジョン・ケイルという二つの才能を持ったバンドですが、二人の単純な足し算ではなく、四人のケミストリーが生み出した驚異のバンド・サウンドです。しかし、後の道行を知った今となっては、二人の個性が完全に融合している訳ではないことも分かります。

 その観点から言えば、かなりジョン・ケイル色が強いアルバムだと言えます。彼のヴィオラやオルガンの佇まい、それにケイル色の強いリズム。ルー・リードらしい楽曲であっても、ジョンが入ると彼の色が濃く出てきます。

 そのバランスが絶妙でしたが、結局、両雄が並び立つのはこれが最後になってしまいました。この緊張感からは当然のような気がします。これ以上、二人で続けていれば、出口がなくなったことでしょう。

参照:「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド試論」間章

White Light / White Heat / The Velvet Underground (1968 Verve)