「彼らの代表作としてだけでなくカンタベリー・シーンを代表する最高傑作」と帯に書いてあります。カンタベリー・シーンはカンタベリー物語で有名なイングランド南部の町カンタベリーを中心に栄えた一連のバンドを指します。

 中心はソフト・マシーンであることは疑いありませんが、確かにシーンを代表する最高傑作としてはこのアルバムなどが最右翼となると思います。シーンを彩った多くのバンドから共通項を抜き出して、シーンの空気を閉じ込めればこのサウンドになります。

 この作品に集ったハットフィールド&ザ・ノースのメンバーは、ワイルド・フラワーズやキャラヴァンのリチャード・シンクレア、マッチング・モールのフィル・ミラー、ゴングのピップ・パイル、エッグのデイヴ・スチュワートの四人です。

 知らない人には何のことやら全く分からないでしょうが、いずれもカンタベリー・シーンを代表するバンドで活躍した人々です。要するにシーンそのもののメンバーなわけです。ですから、この4人からはカンタベリー・シーンの音しか出てきません。

 どんな音楽かと言われるとこれがなかなか説明が難しい。私はこのアルバムに出会ったのは結構遅かったわけですが、サウンドを聴いてこれはカンタベリー系だとすぐに了解できました。むしろそれ以外に考えられない。

 まずジャズ・ロックに分類されるサウンドですが、ジャズ的な感性ではありません。さらにロックではありますがブルース臭はしない。複雑なテクスチャーであって、決して重くない。どこかしゅっとしているサウンドです。そしてひねくれたポップ感覚が横溢しています。

 この作品の一曲目「シェアー・イット」はリチャード・シンクレアのボーカルが入る曲ですが、コンパクト・オーガニゼーションなどのポップ感覚に近いです。ロックやポップスの世界にあることはあるんですが、スーツを着た折り目正しい少しレトロなポップ感覚です。

 やはり音楽を言葉で説明するのは難しいです。聴いていただければすぐに分かる話です。結構この類の音楽は好き嫌いがはっきりしそうです。好きな人はとことん好きで、コアな愛好家が世界中に点在しています。

 一方で、ロックに熱い魂を求める人は受け付けないでしょう。決して彼らの演奏には魂がないと言っているわけではありません。どこまでもクールなんです。現代音楽的な突き放し方が特徴的だと言えるでしょう。

 この作品はハットフィールド&ザ・ノースの二枚目にして一旦最後になったアルバムです。通常は最高傑作とされています。アルバムとしてかっちりまとまっており、B面のほとんどを占める「マンプス」の構成力たるや完成度が極めて高いです。

 参加しているゲストもヘンリー・カウなどシーンとかかわりの深いバンドからですから徹底しています。まるでカンタベリー系サウンドのパロディーに聴こえてしまうほどの完成度で、アンサンブルの妙味を聴かせてくれます。一度は体験してみるべき作品です。

The Rotter's Club / Hatfield And The North (1975 Virgin)