発表は2006年11月でしたけれども、このサウンドトラックは見事に2007年度のフィルムフェア・アウォードを獲得しました。一曲目を歌っているシュレヤ・ゴシャールもベスト女性シンガーに輝きました。3か月ほどチャートの一位を続けたというベストセラー・アルバムです。

 映画は、リライアンス財閥を興した現代インドを代表する立志伝中の人物ディルバイ・アンバニを連想させる筋書きになっています。インド人には常識としてピンとくるインディアン・ドリームの話ですから、これもヒットしました。

 インド一のスーパースター、アミター・バッチャンの息子アビシェーク・バッチャンと、その妻にして女優の概念を変えたとも言われる美人女優アイシュワラ・ライが主演したことも話題でした。社会派映画でしたが、華やかでとても面白かったです。

 音楽を担当したのはARラフマーンです。マドラスのモーツァルトはこの作品でもいい仕事をしました。最初はカナダのトロントで制作を開始したそうで、最初の曲の一つは録音もトロントで行ったと語っています。

 さらに香港にコンサートに出かけた時に、楽器屋さんでアコーディオンを買ったそうです。その楽器に魅了されたラフマーンは、さっそく演奏の仕方を学びます。結果的に、この作品のほとんどすべての曲でアコーディオンの影響が感じられることになりました。

 そう思ってよく聴くと、確かにエレクトリックな通常のボリウッド・サントラに比べると、ちょっと変わった音が聞こえてきます。ラフマーンの楽曲の品の良さというものは、こうしたアコースティックな楽器の使い方によるところも大きいのでしょう。素敵な音です。

 アルバムは、「バルソ・レ」で始まります。アイシュワラ・ライが大自然の中で一人踊るシーンのバックに流れるのですが、インド音楽らしいリズムに乗せてシュレヤ・ゴシャールが伸びやかに歌う、名刺代わりの一曲です。一丁目一番地はぐいっと観客を惹きつけました。

 続く二曲目は「テレ・ビナ」。「あなたなしで」という意味ですが、このラブ・ソングはカッワーリーの巨匠ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンに捧げられています。♪ドゥム・ダラ・ドゥム・ダラ♪と繰り返すところがヌスラットっぽい。スーフィー・ソングです。

 続く曲が「エク・ロ・エク・ムフト」でアビシェークが双子が生まれた喜びのパーティーで酔っ払ってへろへろになって歌う歌。村のお祭りの歌のようです。ボリウッドの作曲家バッピ・ラヒリが見事にへろへろ歌います。

 一番話題となったのは、トロントをベースに活動するカイロ生まれの女性歌手マリアム・トーラーが歌う「マイヤ」です。巡礼に出かけたラフマーンが川のほとりで耳にした♪ワヤ・ワヤ・ワヤ♪という水を意味する言葉の響きを面白いと思ったんだそうです。それでこの曲。

 残り3曲もなかなかのもので、名曲揃いのバラエティーに富んだ秀作だと言えます。とにかく、アコーディオンを特徴とする品のある音作りが見事です。さすがはラフマーン、この人の頭の中は一体どうなっているんでしょうか。音が詰まっていそうです。

Guru / AR Rahman (2006 Sony)