久しぶりにいい感じのジャケットになりました。コンセプトは1950年代のパリでしょうか。カフェで物憂げに佇む松浦亜弥の姿が素敵です。セピア色がかった色調もかっこいいですし、ブックレット全体に貫かれたコンセプトに気合が入っています。

 前作で作りこまない自分を表現したいと語っていた彼女ですが、本人としてはすでに音楽活動の世界では脱アイドルを終えたと考えたのではないでしょうか。その上でさらに次のステージを目指した作品だと言えると思います。

 シングル曲は「きずな」一曲のみです。これは知的障碍者のオリンピックであるスペシャル・オリンピックスの日本応援歌で、2006年に発表されたスピリット・オブ・ジャパンのカバー曲です。あややのシングルとしての発表は2008年です。

 また、冒頭の「結婚しない二人」はKANの作品のカバーです。この2曲のカバーを除くと、J-POPの作家陣によるアルバム用の提供曲です。作曲家の名前を並べると7人になります。タイトル曲を作った中野雄太が二曲、それ以外は一曲ずつの提供です。

 ラテン調の曲もありますし、それなりにバラエティーも豊かですが、基本的にはミディアム・テンポの曲調の歌いあげる歌が中心で、ボーカリスト松浦亜弥の魅力を伝えることを使命とする楽曲ばかりです。そんな曲の数々を実に気持ちよさそうに歌っています。

 しかし、後知恵ですが、すでにこの頃には体調も万全ではなかったようで、この年の夏にはツアー活動を休止する宣言をしています。おまけにアルバム発表時には自宅で足の指を骨折するというアクシデントまでありました。

 ある意味で本人には覚悟があったのでしょう。前作での気負いのようなものがここでは吹っ切れていて、ボーカリスト松浦亜弥としてやりたいことをやりたいようにやりましたという潔さが漲っています。

 アマゾンのカスタマー・レビューを見ると、大絶賛されていることが分かります。しかし、多くはアイドルあややとボーカリスト松浦亜弥のギャップに触れていて、お宝を発見したような意見が多いです。やはりまだ世間にはアイドルとしての確固たるイメージがありました。

 私もアイドルとしてのあややからなかなか抜けられなかった一人ですから、皆さんの気持ちは分かります。しかし、今になってこうして覚悟のアルバムに耳を傾けていると、アーティストとしてのあややと素直に対峙することができます。

 そうして聴いていると、松浦亜弥の声を聴いているだけで幸せな気分になります。しかし、大ヒットにはなりませんでした。前作に引き続き、ちょっと地味なんです。それはそれでありなのですが、ちょっともどかしい気がします。

 せっかく、今回はジャケットのコンセプトはしっかりしているのに、つんく♂時代の方がアルバムとしてのまとまりがありました。サウンドの方のコンセプトももう少し固める余地があったのではないかと思うので、チームあややに頑張ってもらいたいところです。

Omoi Afurete / Matsuura Aya (2009 Zetima)