ジャケットは落ち着いたイメージを醸し出していますし、内容もアイドルというよりも大人のボーカリストの作品集です。随分遠くに来たイメージがありますが、それは松浦亜弥が若くしてデビューしたからです。

 これは松浦亜弥にとって4枚目のオリジナル・アルバムであると同時に、何と彼女の20代初のアルバムというではありませんか。若い若い。昨今の女性歌手は二十歳を超えたくらいではデビューしませんから、破格の若さと言えます。

 「作り込んだ世界観はいままでたくさんやってきたから、今度はリアルな松浦亜弥を伝えたいなって思います」というのが本作品のテーマのようです。前作からここまでの間に発表したシングル曲を網羅しなかったことにもテーマにかける真摯な姿勢を感じます。

 出だしは「今はレットイットビー」と題されています。確かにビートルズを意識しているようで、前奏は明らかに「イエスタデイ」です。これは「レット・イット・ビー」のベース・ラインでも使っているのかと身構えましたがそうでもなさそうです。

 やはり「作り込まない」ことを旨として、そこまで凝ったりはしないということでしょう。その他の楽曲もシンプルなアレンジが続きます。バンド形式になっているのは2曲のみで、シングル・カットされた「笑顔」と、前作とはバージョン違いの「砂を噛むように・・・NAMIDA」です。

 前者はマクドナルドの原田元社長の奥さん、谷村有美による楽曲提供です。その他の楽曲もさほど有名ではないものの、それなりにJ-POP界で活躍されている気鋭の作家陣の曲ばかりです。

 徹底的なつんく♂離れだと言えるのでしょう。一切つんく♂が係わった形跡がありません。作り込んだ世界とはすなわちつんく♂の世界ということなのかもしれません。「シングルベッド」のつんく♂ですから、バラードものも得意なはずなんですが。

 そこらあたりの消息は推測するしかありません。アイドルを主張するつんく♂に対して、ボーカリストとして純粋に勝負したいあややとの戦いだと考えておくのが、本作品を聴いた限りでは正しいのではないかと思います。そこも戦略かもしれませんが。

 アレンジはわざとシンプルになっていますし、各楽曲も大人しく、やんちゃなものはありません。行進曲調の「引越せない気持」くらいが目新しいところでしょう。この曲はフックも利いていてなかなかいい曲です。

 そんなわけで、すーっと流して聴けてしまいます。それが狙いならば狙い通りです。あややのボーカルも艶っぽさをましてきたもののまだまだ清く正しい。一言で言えば癖のないアルバムです。そこが好き嫌いの分かれるところ。私はこれもありだと思います。

 ただし、またまたジャケットの評判が悪いです。ブックレットにはあややの写真が多数掲載されていますが、そのどれを選んでももう少し素敵なジャケットになったと思うんです。制作側に愛が足りないのではないかとちょっと悲しいです。

Double Rainbow / Matsuura Aya (2007 Zetima)