西アフリカの国ではウェイターを呼ぶときに摩擦音の「スー」を使います。あまりに失礼な気がして使えなかったのですが、呼んでも呼んでも来なかったウェイターが控えめな「スーッ」に反応して飛んできたのには驚きました。

 アルバム・タイトルはてっきりそんな風に読むのだと思っていましたが、大鷹俊一さんの解説によれば、「シュッシュ」との発音で、シャンプーの名前からとられたのだそうです。何の意味があるのか分かりませんが、何となくサイケデリックを感じます。

 テン・イヤーズ・アフターは10年後の音を目指して結成されたブリティッシュ・ロック・バンドです。ブルースに根差したバンドでしたが、とにかくアルヴィン・リーの速弾きギターが目立っていました。速弾きは文句なしに子供たちの尊敬を集めたんです。

 この作品は4枚目のアルバムです。彼らの名前を一躍有名にしたのは、1969年8月のウッドストックでの快演ですが、その直前に発表された作品ですから、当然、彼らの作品の中では最も売れた作品になりました。

 アルヴィンの語るところによれば、初めての興奮で作ったデビュー作やライブでの2作目、いろいろ試しながら作った3枚目を経て、本作はベーシック・トラックにサウンドを加えながら作ったのだということで、スタジオを我が物にして作った初めてのアルバムと言えるのでしょう。

 彼らは、ドラム、ベース、キーボードにギターの4人編成で、ブルースを元にしたハード・ロックに定評がありました。イギリスよりも、むしろブルースの本場アメリカでの人気が高く、英国のバンドの中で最も数多くアメリカでライブを行ったバンドとして知られていました。

 これはブルース好きなバンドとしては最高の勲章だったことでしょう。そういうわけですから、ウッドストックでの大成功はすでにアメリカでの素地が十分に整っていた上での出来事です。そこがジミヘンやザ・フーとは違うところです。

 アルバム・カバーはアメリカのスーパースター、CSN&Yのグラハム・ナッシュが写真を提供しています。アメリカで居心地が良かったことはこんなところにも表れています。当然、サウンドもなかなか充実しています。

 ブルースの巨人サニー・ボーイ・ウィリアムソンの「グッド・モーニング・リトル・スクールガール」の魅力的なカバー以外はすべてギター&ボーカルのアルヴィン・リーの手になる作品です。いずれもブルース臭が強烈に漂う曲揃いです。

 ただ、さすがにアルヴィン・リーは端正なギターを弾くので程よい黒さに留まっています。レオ・ライオンズのぶんぶんベースも目立っているのですが、彼らのショーは「アルヴィン・リー・ショウ」と題されることもあったようで、ややアンバランスだったのかもしれません。

 とはいえ解散した時期もあったものの、いつまでも現役を続けている彼らの最高傑作ですから、勢いとともにメンバー間の絆も感じられます。ブルースとサイケデリックで、1969年のブリティッシュ・ロックを象徴する作品でもあります。

Ssssh / Ten Years After (1969 Deram)