サングラスに皮ジャンはロックン・ロールのアイコンです。教育効果が行き届いているので、誰しもサングラスと皮ジャンを身にまとうとロックン・ロールな気分になるものです。とりわけ中年世代にとっては定番中の定番です。

 ジョン・ケイルのアイランド第二作は前作のおどろおどろしいジャケットとは打って変わって、ロックン・ロールなジャケットになりました。こういう格好をするとヴェルヴェット・アンダーグラウンドの双璧だったルー・リードと比べたくなりますが、そこも狙いだったかもしれません。

 それにこの作品にはジョン・ケイルのソロ作品の中で最も有名ではないかと思われるエルヴィスの「ハートブレイク・ホテル」のカバーが収録されています。ロックン・ロールの中のロックン・ロール、エルヴィスです。

 ついでに1曲目の「ミスター・ウィルソン」はビーチボーイズのブライアン・ウィルソンに捧げた歌です。ロックの偉人たちへの眼差しが感じられます。現代音楽に近い人だと一般に思われているケイルですから、やや意外に思ったものです。

 しかし、エルヴィスのカバーは秀逸です。原型をとどめないといえば言い過ぎになりますけれども、重苦しい音像で描かれる「ハートブレイク・ホテル」はジョン・ケイルの持つダークな側面を遺憾なく映し出しています。

 今回も前作同様ブライアン・イーノとフィル・マンザネラが全面的に参加しています。さらにクレジットにはありませんが、サックスを吹いているのは同じロキシー・ミュージックのアンディ・マッケイだそうです。

 ついでに「ギター・ジャンボリー」のクリス・スペディングも参加して、いかにも彼らしいギターを聴かせてくれます。さらにリズム隊はどうやら「英国トラッド~サイケのディープな人脈」なのだそうです。そして、ニューヨークからは渋いジェフ・マルダーが参加しています。

 サウンドは前作の延長線上にあると思いますけれども、前作に比べるとより堂々たる本格的ボーカル・アルバム度が増しました。前衛的な部分が姿を潜め、より気持ちよくジョン・ケイルが歌いまくっています。

 そして、やはりロックン・ロールへのこだわりが現れています。ケイルらしからぬと当時は思ったものですが、「一つのところに落ち着かない」ケイルにとっては、「らしからぬ」ということが最もケイルらしいということなのでしょう。

 ただ、一番ロックン・ロールであるはずの「ハートブレイク・ホテル」はむしろこれまでのケイルの姿が色濃いです。自分のバックグラウンドを総動員して「ハートブレイク・ホテル」に対峙している姿勢がいいです。このダークなリフと重いボーカルは素晴らしい。

 この作品をジョン・ケイルの最高傑作にあげる人も多いと言います。確かにこの作品はボーカル作品として前作よりもまとまっていますし、話題性もあります。しかし、だからといってセールスにつながらないところが可哀想です。

Slow Dazzle / John Cale (1975 Island)