真夏にガムラン音楽はぴったりです。何と言っても青銅の打楽器の音色が冷やっこいです。透き通るような一音一音が冷気を連れてくるので、部屋中が冷たくなってきます。赤道直下で生まれたのもよく分かります。

 NPO法人日本ガムラン音楽振興会のHPの記述を借りると、「『ガムラン』は青銅打楽器を中心としたアンサンブルで、インドネシアを代表する伝統音楽として、ジャワ島やバリ島を中心に、現在も各地で盛んに演奏されています」。

 私はてっきりバリ島だけの音楽かと思っていましたが、そうではないようです。しかし、まあ最も一般的に有名なのはバリ島のガムランでしょう。このCDはそのバリ島のガムラン音楽を録音した作品です。

 バリ島のガムラン音楽の中でも、ここで聴かれるのはゴン・クビャールというスタイルです。ガムラン音楽は古典音楽なのかと思っていましたが、伝統音楽ではあるものの現代に息づいている大衆音楽であるようです。そして、ゴン・クビャールはまさに現代のガムランです。

 ここで演奏しているのは、アビアン・カパス・カジャという名の集落の「エカ・チタ」青年団です。毎年バリ島で行われるゴン・クビャール・フェスティバルにおけるバドゥン島の代表グループだそうです。バドゥン島は中心都市デンパサールのある地方です。

 録音は1990年12月6日に行われたゴン・クビャール・フェスティヴァルで行われました。ここでの曲は「近来稀に見る名曲ばかりであ」るとは、このグループに属していたことがある、日本のガムランの第一人者皆川厚一さんの解説です。

 エカ・チタは1985年に合同葬儀のためのグループとして集められた中学生から大学生までの青年たちによって結成されました。「予想外によくまとまったグループだった」ので、大人たちは彼らを「二軍に仕立てようと厳しい訓練を開始した」そうです。

 このグループは「見事に世代交代を果たし、クビャールの演奏ではかつての年寄りたちを上回る実力を身につけてきた」結果、1989年からは村の代表に選ばれています。その年は大学の試験などで辞退したものの、90年には出場して、この演奏を繰り広げました。

 ここに収められた曲は4曲で、後半の2曲は舞踏用の曲になっています。ガムランには伝統的儀礼曲、古典舞踏、創作舞踏に創作曲など、伝統を踏まえつつも、新たな楽曲が多数生まれています。現代に呼吸しているわけです。

 演奏を聴いていると、ガムランのイメージがかなり変わります。冷やっこい音色を期待していると、意外に太鼓類の活躍が目立っていて、民族音楽的であり、かつ大衆音楽的な色彩が強いです。神々しい音楽かと思っていたら、熱気に満ちた地上の音楽でもありました。

 ちょっとでもミスをすると、容赦なく観客から罵声を浴びせられ、時には石が飛んでくることもあると言います。観客みんなが肥えた耳を持っている中で演奏するのですから鍛えられます。青年団なんていうほのぼのした呼び名が似合わない厳しいお話です。

Bali : Gamelan Gong Kebyar / Eka Cita, Abian Kapas Kaja (1999 キング)

皆川さんの解説をどうぞ。