「むすんでひらいて」と訳すことができそうです。フェラのアルバム「オープン・アンド・クローズ」は、彼が紹介している通り、新しいダンスです。手を結んで開いてする代わりに、両手と両足を「閉じて開いて」いたします。

 ジャケットに変な恰好をしている女性が写っていますが、これはどうやら振付らしいです。順番が今一つ分かりませんが、大たいのことは分かります。女の人たちは随分楽しそうに踊っていますから、ステージでは盛り上がったことでしょう。

 この時期のフェラのアルバムの例に漏れず、この作品も1971年発表説と1972年発表説があります。テナー・ギターがさほど活躍していませんから、「シャカラ」の前ではないかと勝手に推測します。そうすると録音は71年でしょう。

 しかし、オリジナル・ジャケットの内側には、フェラがガーナを訪問した時にアチャンポン大統領がフェラと一緒に歌っている写真が載っていたそうです。アチャンポン大統領の軍事政権樹立は1972年1月のことですから、やはり発売は72年ということになります。

 この作品には珍しく3曲が収録されています。ただし、二曲目の「スウェベ・アンド・パコ」は分割されて2面にわたる収録だったようです。そうなると4曲と言った方がよいかもしれません。何とも大雑把なレコード制作姿勢が嬉しいです。

 タイトル曲は、フェラによるダンス指導がボーカルになっています。手を開いて閉じて、足を開いて閉じて、などと歌うフェラはとても楽しそうです。単調なダンスですが、リズム感に優れたナイジェリアの人々が踊ると凄そうです。

 この曲の目玉はトニー・アレンのドラム・ソロです。彼はとても控えめな人なので、滅多にドラム・ソロはやらないのですが、ここでは珍しくソロをとっています。ひょっとするとダンスと関係あるのでしょうか。いずれにしても、さすがはアレンだけあって、ソリッドなソロです。

 2曲目というか2、3曲目というか「スウェベ・アンド・パコ」は、「悪と善」とか「出来ない奴と出来る奴」という意味で、よりよい社会に向けて働くナイジェリア人を激励する歌です。まだフェラの身辺は慌ただしくなってはいない時期なので、まだまだ穏やかです。

 最後の曲は英国の植民地支配に武器をもって立ち向かったナイジェリア人のことを歌っています。フェラはナイジェリアの植民地根性を常に攻撃の的にしていましたから、先達を見習えと歌っているのでしょう。

 この頃のフェラのアルバムはどれを聴いても素晴らしいです。アフロ・ビート確立期のサウンドには、フェラの進化の足取りが記されています。どれをとっても同じという人もいますが、もちろんそんなことはありません。

 ハイライフ的な軽みがしなやかなリズムと共存していて素敵です。フェラの人生もこの頃はまだまだ平穏でした。映像が見当たらないのが残念ですけれども、ステージで結んで開いてするアフリカ70はさぞや楽しかったことでしょう。

Open & Close / Fela Ransome Kuti & Africa 70 (1972 EMI)