前作に引き続いて何ともコズミックでスピリチュアルなジャケットですが、背表紙を含めて、ここにはアルバム名もバンド名もレコード会社のロゴも全くありません。レッド・ツェッペリンの4枚目を思い出しますが、あちらはレコード番号が入っていました。

 ジャケットはヴィジュアル・アーティストのジョアン・チェイスと写真家でイラストレーターのメアリー・アン・メイヤーという二人の女性が係わったヘビー・ウォーター・ライト・ショー名義です。このショーはグレイトフル・デッドなど西海岸サイケデリックと親和性が高いです。

 サンタナは大胆です。ここら辺りにヒッピー文化の名残の残る西海岸を感じます。ビジュアル面から何から実験精神が旺盛で、我が道を歩む気概が感じられます。古き良き時代だったなと少し遅れた世代の私などは思います。

 サンタナの3枚目は上記のような事情なので、通称「サンタナIII」と呼ばれます。前作と同様に全米1位を獲得し、軽くミリオンセラーとなっています。サンタナが乗りに乗っている時期のアルバムだと言えます。

 今回の最大の特徴は当時弱冠17歳だった天才ギター少年ニール・ショーンの加入です。彼を加入させた時、マイルス・デイヴィスから「おい、カルロス、お前に『白いギタリスト』なんかいらない。お前だけで十分なんだ」と忠告されています。

 カルロスは「マイルス、あなたにはもう一人のトランぺッターは不要でしょうが、私にはもう一人のギタリストが必要なんですよ」と答えています。何の説明にもなっていない答えですが、真面目なカルロスらしいです。

 このアルバム発売時にビルボード誌に載った全面広告には、ただひと言、「聞いていただければわかります」と書かれていたそうですが、これもまたカルロスの真面目さの表れだと思います。向かうところ敵無し。

 ニールの加入はバンドのサウンドを大きく変えました。いや、ここは書き方が難しいのですが、ラテンへの傾倒はさらに深まっていますし、パーカッション群の大活躍は相変わらずです。どこがどう変わったかと言われるとさほど変わっていないようにも思えます。

 しかし、過去2作の延長線にあるかというとそこは随分違う肌触りを感じます。もともとサンタナ・サウンドは塀の上を歩いているようなもので、少しバランスが変わるだけで、ロックかラテンかどちらかの陣営に引き込まれてしまいます。

 サンタナ史上でもダンサブルなサウンドですし、「情熱のルンバ」などティト・プエンテ作品はラテンそのものです。しかし、ボディーは大きくロック界に色分けされてきたような気がします。面白い作品です。

 「祭典」「禁断の恋」「新しい世界」「愛がすべてを」「ワヒーラ」など楽曲の充実は目を見張るほどですし、サンタナ節は健在ですが、野性味あふれるジャンル分けされない初心の魅力から、どっしりと腰を落ち着けてサウンドを探求するスターの魅力に変わってきました。

参照:「ジョン・レノンから始まるロック名盤」中山康樹

Santana III / Santana (1971 Columbia)