小泉今日子はいわゆる花の82年組アイドルの一人ですけれども、いわばアイドルを超えたアイドルです。自立したアイドルとでも言うのでしょうか、芸能誌だけではなく、「(サブ・カルチャー時代の)『宝島』に出たりとか」する人は彼女が走りでしょう。

 森高千里や、時代は下って中川翔子や渡辺麻友のようなオタク系アイドルの元祖とでも言える存在です。そういう兆しは「なんてったってアイドル」にありましたが、本人もこのアルバムの頃から「そんな感じ」になってきたと認めています。

 このアルバムは彼女のベスト盤も入れて14作目にあたる作品で、初めて本人が「半分プロデュース」をしたアルバムです。半分プロデュースの意味が分かりにくいですが、アルバム収録楽曲の作者のチョイスなどは彼女の手に委ねられたようです。

 彼女が選んだ作者はなかなか豪華です。作曲陣を並べてみると、まずはボウイの氷室京介、吉川晃司、ジ・アルフィーの高見沢俊彦、ポータブルロックの中原信雄、爆風スランプのファンキー末吉、バービーボーイズのいまみちともたか、ザ・トップスの宅間顕。

 そして、カリョービンの上田知華、歌謡界からは、御大筒美京平と林哲司となっています。作詞は作曲者によるものもありますが、それ以外では湯川れい子や秋元康、川村真澄などの作詞家連に並んで、渡辺えり子に御茶漬海苔の名前が光ります。

 渡辺えり子は山形出身のあの俳優さん、彼女の「お芝居を観に行って。ああいうアングラ感に初めて触れて、面白かったから、歌詞を書いてもらいたいなあって」。小泉今日子半分プロデュースの模様が良く分かります。

 それを上回る半分プロデュースの醍醐味は、ホラー漫画家御茶漬海苔の作詞家起用です。「気持ち悪いのが好きだったんです(笑)」だそうです。「自分でオーダーした人たちの作品が上がってくるのは、ホント楽しみだった」と本当に楽しそうです。

 当時のディレクター田村充義は、「彼女は歌い手意識が強かったので、『そろそろ自分で責任取って、前に出ていかないといけないんじゃないの?』と」彼女を「やわらかく」諭したら、こんなことになってしまいました。

 彼女自身にもともとセルフ・プロデュースの資質があったということでしょう。そこがアイドルを越えるアイドルたる所以です。ジャケットのアートワークも本人の意向が強く反映されていて、男性目線ではなかなか出ないものになっています。

 サウンドはホッピー神山や井上鑑などの曲者を編曲に起用していて、丁寧な作りになっています。ちょうど80年代後半の打ち込みサウンドを背景にした卒のないサウンドです。音の広がり感などはまさにこの時代ならではです。

 そして、小泉今日子は本当に楽しげに歌っています。高見沢俊彦の「木枯らしに抱かれて」と筒美京平・秋元康の「夜明けのMEW」が大ヒットしましたが、他の曲もいい感じです。アイドルのアルバムを超えたアイドルのアルバムです。

Hippies / Koizumi Kyoko (1987 ビクター)