笑福亭松之助師匠の自虐的な自己紹介に「明石家さんまの師匠、笑福亭松之助です」というのがあります。松浦亜弥は、平家みちよの妹分オーディションに合格してデビューしました。みちよさんの自己紹介ネタに使えそうです。

 歌手デビューは2001年4月。まだ14歳でした。彼女にはその後長らく年齢詐称疑惑が持ち上がります。疑惑を打ち消すべく、さまざまな証拠が提示されますけれども、世間は聴く耳を持ちません。これは一重に彼女の大人びた歌唱力のせいだと思えば勲章でしょう。

 デビュー作は「ドッキドキ!LOVEメール」、その後立て続けにシングルをリリースして、シングル・デビューから8か月後の2002年1月に発表されたのが、このデビュー・アルバムです。彼女のキャリアの中でも人気と評価ともに高い作品です。

 プロデュースはもちろんつんく♂です。2002年1月は、モーニング娘。の歴史で言えば、「LOVEマシーン」で頂点に達したのが1999年暮れ、その後メンバー交代が続いて、2001年暮れに第五期メンバーが加入した頃です。頂点を越して一段落していた頃です。

 そのあおりもあったのか、このアルバムはオリコン・チャートで1位になることはなく、2位どまりでした。完璧なアイドルとして登場した松浦亜弥でしたが、登場時期がもう少し前後していたらもっと爆発していたかもしれません。

 テレビ番組「朝ヤン」で初めて見た彼女はあまりに子どもで驚いたものです。何と言っても中学生でしたから。こっちは40歳です。その後、中学生くらいでデビューするアイドルも珍しくなくなりましたが、成長途上の中途半端な時期の少女はやはり恐ろしいです。

 その後、ほどなく普通の女の子、そして女性になっていくわけですが、一瞬の奇跡的な不安定さの魅力は強烈に焼き付いています。そのフラジャイルな若さがこのアルバムに表れているかと言えば、それはありません。歌声は年齢以上に大人びています。

 もちろん大人だと言っているわけではなくて、若い女の子らしい溌剌としたボーカルなのですけれども、子どもではなく、どちらかと言えば大人寄りのボーカルです。20歳前の女性のボーカルだと思います。

 つんく♂は、おニャン子の秋元康と違って、ミュージシャンですから、音にこだわりがあります。作詞を含めた曲作りそのものは、両者でそれほど違うとは思いませんが、サウンドへの気の配り方には雲泥の差があります。

 2001年頃と言えば、アリーヤやTLCなどが活躍していた頃です。そのブラック・ミュージックのエッセンスがうまく取り込まれたサウンドは聴き応えがあります。当時のサウンドだということで何だか懐かしくなります。当時のw-indsのサウンドに比べると圧倒的にプロ仕様です。

 そんなサウンドをバックに、14歳とは思えない歌唱を披露する松浦亜弥は大そう気持ちよさそうです。つんく♂も中学生を前にいろいろと試行錯誤を重ねた様子がありありと見えますが、うまく噛み合ったようです。標準をはるかに超えるデビュー作です。

First Kiss / Aya Matsuura (2002 Zetima)