パンク/ニュー・ウェイブ期の英国にたくさん生まれたシンセポップ・バンドの中で最も長続きしているバンドがこのデペッシュ・モードです。同類バンドがどんどん消えていく中で、彼らが残るなんて、当時の誰が予想できたでしょうか。

 同時期のインディーズ系レーベルの一つダニエル・ミラーのミュート・レコードから出てきた彼らにはヴィンス・クラークという後にヤズーやイレイジャーで活躍する人物がいて、デビュー作では彼が全曲を作っていました。

 その彼が去って、2作目ではマーティン・ゴアがほとんどの曲を作っています。中心人物が変わって、バンドがさらに大きくなるというのは面白いものです。そして、今作ではアラン・ワイルダーが正式に加入してさらにパワーアップしました。

 アランは、他の三人のメンバーと違って、きちんとした音楽教育を受けた人で、楽器も格段にうまく弾ける人でした。スタジオ作業へのこだわりも強く、今作から登場したサンプリング機材も彼なしにはここまで活躍できなかったものと思われます。

 新生デペッシュ・モード・サウンドが確立した作品がこのアルバムで、第二のデビュー作とまで言われることがあります。私の大好きな曲「エヴリシング・カウンツ」も含まれていて、これまで以上のヒットを記録したアルバムでもあります。

 録音はYMOも影響を受けたテクノの先輩ウルトラヴォックスのオリジナル・リーダー、ジョン・フォックスのスタジオで行われ、ミックスはデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」を生んだベルリンのスタジオで行われています。後者は安かったからというのもあるそうですが。

 スタジオ選びからはレーベル社長でプロデュースを担当しているダニエル・ミラーの気合が伝わります。彼は何とジャケットでハンマーを振るっています。このジャケットといくつかの曲の歌詞から、このアルバムは社会派アルバムだと言われます。

 音楽誌には「若きマルクス主義者たち」などと書かれてもいます。この作品ではメタル・パーカッションなども導入され、より硬質でメタリックな音になっていて、それがソ連や共産主義を連想させるのですが、実際にはこれはドイツの一連の音の影響です。

 当時、デペッシュ・モードはノイバウテンやデア・プラン、それにDAFなどのドイツのバンドに入れ込んでいたそうです。こうした影響が「デペッシュ・モードの世界観にそって、あくまで自然に吸収されていった」とダニエルが語っています。

 ほとんどがシンセサイザーやイミュレーター、シンクラヴィアなどの機材を使って演奏されています。サンプリングではレコードからではなくて、「まわりにある『世界』の音のみを使った」そうですから、自然音の加工によるサウンドです。

 まだまだ機材の進歩は初期段階ですが、それだけに実験精神は旺盛で、廃墟で空気感を得るために録音するなど興味深いです。甘いシンセポップでありながらも骨太の音楽だからこそ長生きできたのでしょう。初期のシンセポップ史に残る傑作だと思います。

Construction Time Again / Depeche Mode (1983 Mute)