ベルギーのお洒落レーベル、クレピュスキュールのコンピレーションです。同レーベルには他に「ブリュッセルより愛をこめて」と「ゴースト・オフ・クリスマス・パスト」という名作コンピがありますが、これはそれらに比べると影が薄い作品です。

 確かに意表をついたカセットによるリリースだった「ブリュッセルより愛をこめて」に比べると普通のLPではインパクトに欠けることは否めません。内容的には見劣りするわけではないのに残念です。

 相変わらず英国のファクトリーとの蜜月は続いていて、ここでも同レーベルのアーティストであるドゥルッティ・コラム、ネイムズ、スワンプ・チルドレンが参加しています。特にドゥルッティ・コラムに至っては、ボーナス1曲を含めて4曲も収録されています。

 それにスコットランドのポストカード・レコードとも関係を深めていて、同レーベルからはアズテック・カメラのバックアップを得たフレンチ・インプレッショニスツやポール・ヘイグ、さらには同レーベルのスター、オレンジ・ジュースが参加しています。

 ただし、オレンジ・ジュースは元のLPには含まれていましたが、何故かCD化に際して削除されています。「愛をこめて」ではア・サーテン・レイシオ、今度はオレンジ・ジュースと削除されるのは人気者ばかりです。大人の事情っていうやつでしょうか。

 収録されているインタビューは今回はマルグリット・デュラスです。ヴァージニア・アシュトレーのトラックに乗せてフランス語で語られますが、ちゃんとブックレットに訳がついています。「映画はどこか売春によく似ている」という言葉が今回の決め台詞です。

 その前後にはスコットランドの詩人リチャード・ジョブソンのデュラスに捧げる詩の朗読が収録されています。「ラホールの総領事」や「愛人」など、デュラスの小説を思い出しながら、ジョブソンの朗読に耳を傾けていると何だか懐かしい気になってきます。

 さらにはウィリアム・S・バロウズの朗読も収録されています。バロウズはカルトなスター作家ですから、ひたすらありがたいです。それも客席と楽屋の両方で録音されているので、バロウズと親しい関係になったように感じます。

 また、現代音楽畑からは米国のピーター・ゴードンやアーサー・ラッセル、多国籍ロック・シリーズということではオランダの323、ベルギーのマリン、英国のライン・リバー3、それに米国のDNAやシック・ピジョンを挙げねばなりません。

 シック・ピジョンにはDNAの日本人ドラマー、モリ・イクエさんが参加しています。さらに、ドビュッシーやサティーのピアノ曲をそのまま演奏したもの、タキシードムーンの音を背景にしたウィンストン・トンの「意識の流れ」るままの語りなど盛りだくさんです。

 しかし、全体を通した聴くと、いわゆるネオアコに近いです。ネオアコというスタイルがカッコいいものであることを世に知らしめたのはクレピュスキュールの功績であるということが思い出されます。この思いっきりお洒落なアルバムはニュー・ウェイブの一つの到達点です。

The Fruit Of The Original Sin / VA (1981 Crepuscule)