クックーランドは、全てが狂ったどこか、不思議の国のアリスのような場所を表しています。托卵で悪名高いカッコウをもってきたところが秀逸です。アルバム中の一曲、「カッコウ・マダム」は嫌われ者のカッコウが自分の子供を育てられない哀しさを歌っています。

 ロバート・ワイアットの「シュリープ」以来6年ぶりの作品です。75分にも及ぶLPならば2枚組の分量を持ったアルバムには、間にティー・タイムとして30秒間の沈黙が入っています。疲れた耳を休めるためとはいかにもイギリス的なユーモアです。

 この作品もフィル・マンザネラのスタジオで制作されており、エンジニアも前作同様ジェイミー・ジョンソンが担当しています。二人はよほど相性がよいようです。自然に見えても音を切り刻んでいるそうですから、エンジニアの腕の見せどころです。

 本作の共演者の中ではカレン・マントラーが一番目立ちます。彼女はマイク・マントラーとカーラ・ブレイのお嬢さんです。ご両親はロバートと親交が深かったため、10代の頃から彼女を知っていたそうです。

 カレンは、彼女の曲3曲とアントニオ・カルロス・ジョビンのカバー1曲で演奏していることに加え、カレノトロンでも参加しています。これはカレンの声を録音してそれを演奏出来るようにした人声版メロトロンです。

 ロバートは煙草のせいで高い声がでなくなっており、似た声のカレンがその穴を埋める役目も果たしているそうです。なるほど考えたものです。加えて、カレンのジャズ演奏はどことなくユーモラスで素晴らしいです。ロバートと相性がいいはずです。

 さらに前作からのトロンボーン、エイミー・ホワイトヘッドに加えて、ジャズ畑から今回は戦うジャズマン、ジラッド・アツモンが加わりました。イスラエル生まれで「最も過激なパレスチナ擁護者」であるアツモンは、ベース奏者ヤロン・スタヴィを連れての参加です。

 どこまでもシャイなロバートはアツモンに自分のことをアマチュア音楽家と紹介したそうです。しかもアルフィーが参加をお願いしにいったといいますから面白いです。アツモンの参加でますます本作のジャズ色は強くなりました。

 この作品はジャズ的であると同時にどこかノスタルジックでもあります。さらに、デヴィッド・ギルモアやポール・ウェラーの参加もあって随分カラフルになっています。暖かみもあるのですが、とても政治的なメッセージも込められているという不思議な作品です。

 ♪ヒロシマ、ナガサキ♪と繰り返してアメリカを糾弾する「フォーリン・アクセント」や、第二次大戦中のジプシーの強制収容所を歌った歌もありますし、イラクの子供たちへの子守唄もあります。そんなメッセージがヒシヒシと迫ってきます。

 このアルバムは高い評価を受け、ワイアット夫妻がいつの間にやらアーティストとして極めて大きな存在になっていたことに皆が気づきました。デビュー以来30年以上も進化を続け、キャリアの頂点とも言える傑作をものしたロバートは凄いです。

Cuckooland / Robert Wyatt (2003 Ryko)