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前作発表後6年が経過しています。その間、またまた深刻な鬱状態に陥ったワイアットでしたが、今回は抗うつ剤プロザックも飲み、カウンセラーにもかかりました。しかし、何よりも彼を救ったのは音楽活動でした。その結果がこのアルバムです。
昔からの友、ロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラがロバートに自分のスタジオを提供したのがその始まりでした。制作の自由を得たロバートは、本当に久しぶりに一人きりではなくて多彩なゲストとともに曲作りにかかりました。
マンザネラ・スタジオのエンジニア、ジェイミー・ジョンソンとの出会いも見逃せません。彼は最高の音を追及するだけのエンジニアではなく、音の完成度と音楽の完成度を混同しない人でした。ロバートにとっては理想のパートナーです。
さらに、ラフ・トレードのジェフ・トラヴィスの紹介で、ライコー・ディスクのアンディー・チャイルズと契約することが出来て、アルバムの発表先も見つかりました。皆がロバートを支えています。友人と言うのは本当にありがたいものです。
いつものようにアルフィーの手になるジャケットですが、今回は印象的なブルーが眩しいです。サウンドもこれまでとは異なり、とても明るいです。冒頭のイーノとの共作になる「ヒープス・オブ・シープス」のイントロが聞こえてくるとちょっと驚きます。
決して無駄に明るいわけではありませんが、ワイアットの作品としては珍しく、吹っ切れたような爽やかなサウンドです。ただし、もちろん悩みは深い人なので、しつこくソフト・マシーンのヒュー・ホッパーのことを歌っていたり、アルフィーへの申し訳なさを呟いたりもしています。
しかし、音楽制作に専念できる環境で、気の合う素晴らしいミュージシャンたちとコラボしたことで、確実に強靭でしなやかなサウンドが達成されました。やはりプロザックよりも音楽が癒しになることは明らかです。
参加ミュージシャンの中で目を惹くのがジャムのポール・ウェラーです。たまたまマンザネラ・スタジオを使っていたポールは、スタイル・カウンシルの「ホール・ポイント・オブ・ノー・リターン」がカバーされると聞いて、「ギターが必要なら声かけてくれ」と言ったのだそうです。
そして、ジャズ界からは、サックスのエヴァン・パーカーやトロンボーンのアニー・ホワイトヘッドが参加しています。ロバートはポールのロック魂が大好きな一方で、本来的に「美しい音階と変な音符を同居させる」ジャズ的な人だ、というのがジェイミーの見立てです。
本当に久々に優れたミュージシャンに囲まれたロバートは生き生きとしていますし、魔術的に美しいサウンドが展開されています。長いトンネルを抜けたような輝きに満ちた素晴らしいアルバムです。文句なし。
参照:"Different Every Time"Marcus O'dair
Shleep / Robert Wyatt (1997 Hannival)