ジャケットにはレコード屋さんに佇んでいるトム・ペティの姿が写っています。アメリカのレコード屋さんというのは日本とは随分違います。日本だと高級品なレコードが無造作に置かれています。彼我の違いを感じたものです。この作品に相応しいです。

 トム・ペティは渋谷陽一に似ています。そのせいで私には「ロッキン・オン」と切っても切れないアーティストのように思えます。一方の雄、「ミュージック・マガジン」の中村とうようはトムのことが大嫌いでした。小便臭いだのしみったれただの散々な言い様でした。

 それに彼らはデビューした時期がパンクの時代でしたから、パンク/ニュー・ウェイブのバンドだと紹介されました。この音を聴くと、どこがどうしてそうなるのか全く分かりませんが、当時は確かにそういう認識がありました。

 そんなこんなで、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのことはロック評論との密接なつながりぶりがとても印象に残っているバンドです。少し時期がずれていれば全く違った捉え方になったでしょうから面白いものです。

 この作品は、彼らの4枚目のアルバムです。前作の「破壊」が全米2位の大ヒットを記録して乗りに乗った時期の作品です。このアルバムも全米チャートではトップ10に入る大ヒットとなっています。

 シングル・カットされた「孤独な世代」がまずいい曲です。邦題がまだパンクを引きずっていますが、これは単に好きな人を待つ時間がつらいと歌っているだけです。「孤独な世代」的な大仰なタイトルは全く似合いません。

 トム・ペティはボブ・ディランやジョージ・ハリソンとトラヴェリング・ウィルベリーズを結成します。まさにそういうサウンドの人なわけです。パンクというよりも昔ながらのチンピラっぽいところがありますが、サウンドはアメリカ南部のロックの色濃い影響を受けたものです。

 ただし、オールマンズなどサザン・ロック的な雄大な広がりを感じさせるというよりも、ウェスト・コースト的なまとまりをもったサウンドです。その意味では都会的と言えるかもしれません。風貌も優男ですし、やさぐれた洗練というものを感じます。

 このアルバムのセールスポイントの一つはフリートウッド・マックの歌姫スティーヴィー・ニックスの参加です。「インサイダー」という曲で二人はデュエットしています。ニックスは可憐なのにドスがきいているので、ちょっといちびったトムの歌とよく合います。

 この作品を制作した時には、隣のスタジオにジョン・レノンが来る予定だったそうです。しかし、ジョンは結局来ませんでした。1980年12月があったからです。トムはマスター・レコードに彼の名前を刻んではなむけにしました。何とも胸がふさがる話です。

 そのことも多少は影響しているのでしょうか。ちょっとしっとりとしたアルバムに仕上がっています。トムの声はそうでなくてももの悲しいところがあります。いずれにせよ、アメリカのロック界をしぶとく生き抜くトム・ペティの代表作として記憶されるアルバムです。

Hard Promises / Tom Petty & the Heartbreakers (1981 Backstreet)