レゲエの歴史を辿った4枚組のコンピレーション盤をかつて愛聴していました。年代順に楽曲が並んでいましたが、その1枚目の冒頭にフォークス・ブラザーズの「おぉキャロライナ」、4枚目の最後にシャギーの「おぉキャロライナ」が収録されていました。

 1958年と1993年、35年の月日を隔てた同じ曲で挟み込むというい粋な演出が嬉しいコンピでした。発表は93年でしたけれども、当時、この曲の勢いは凄かったので、すんなりと納得のいく仕業でした。

 もともとのスタイルはレゲエ誕生以前です。それがシャギーの解釈によってダンスホール・レゲエという当時流行の最先端だったサウンドに生まれ変わっています。レゲエの進化とともに、精神は何ら変わらないのだぞという示威行為だったかもしれません。

 この作品は、シャギーのデビュー・アルバムです。彼は1968年ジャマイカ生まれで、ステージネームは「わんぱくクリッパー」のキャラクターからとっています。このキャラの日本名は「ぼろぴん」だといくから面白いです。そういう語感なのかもしれません。

 18歳の時に渡米してすぐにニューヨークのレゲエ・チャートでヒットを飛ばすという大した才能ぶりです。しかし、88年には米国海軍に入隊して湾岸戦争を経験しています。軍隊にいながらにこのデビュー作品を作り上げたといいますから根性があります。

 しかし、そういう影は微塵もみられません。シャギーのレゲエのスタイルはダンスホール・レゲエです。ゆったりしたリズムにトースティングと呼ばれるラップ的な歌を乗せていくスタイルで当時大いに流行りました。

 シャギーはちゃんと歌も歌うので、必ずしもダンスホール・レゲエの代表アーティストとは呼ばれないのですが、この頃のシャギーを大くくりにすればその範疇に入ります。また、ラガマフィン・スタイルとも当時は呼ばれていたと記憶します。

 さほど展開のないリズムに乗せて飄々とした声が流れていく様は本当に心地よいですし、心躍ります。いろいろと悩み多き時期でしたけれども、こうした音楽を聴いて乗り切れたという自分史もありました。

 当時の日本での受け止め方はよく分かっていないのですが、このアルバムには全曲にやりたい放題の邦題が付けられているところを見ると、シャギーとともに楽しもうという意図がありありと見えてきます。「あーっ!!いぃーっ!!えぇっ?!おーっ!!」ですから。

 ボブ・マーリー時代のストイックなレゲエ・ファンというイメージからは大きく異なり、日本でも炎天下でラム酒をかっくらうファンというイメージに代わってきたのはこの頃からでしょう。三木道山の大ヒットまではまだ8年ありますが。

 シャギーはデビュー作の後も活躍を続けていくことになります。その原点にしてすでにスタイルは完成しており、プロデュースにあたったロバート・リヴィングストンとスティング・インターナショナルを含めて、ジャマイカの底知れぬ力を見せつけられた作品でした。

Pure Pleasure / Shaggy (1993 Virgin)