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花澤香菜のシングル「こきゅうとす」は今をときめく、やくしまるえつこが全面プロデュースをしています。曲作りからボーカル指南、そしてプロデュース。さらに彼女のバンド相対性理論から永井聖一と山口元輝が演奏で参加しています。
思えば歌オンリーの方々よりも、声優さんの方がいろんな冒険をしやすい立場にありそうです。本職が別にある余裕というのもあるでしょうし、底堅いファン層は彼女たちの声が聴きたいわけですから、音楽の実験に対する許容度が高いと推測されます。
だいたいこのプロジェクトがスタートする時に、スタッフが花澤に「曲を書いてほしい人いる?」と聞いています。やくしまるさんのファンだった花澤さんが彼女の名前を出したことからこの作品が実現したという、何とも心地よい展開です。
できた曲は、花澤の「酸素を十分含んだとても素直な発声で、その健気な優等生とでも表現できそうな声質・発声方法」を生かした曲「こきゅうとす」と、「低めの声域にも焦点を当てたくなったので」低いキーを設定した「アブラカタブラ片思い」の2曲。
「こきゅうとす」は地獄の最下層を流れる川コーキュートスのことです。ダンテの「神曲」では裏切り者が氷漬けにされています。リミックスも収録されていて、そちらは「天国」と副題されています。そう聞くと、何だか不気味な気もします。私は普通に呼吸の歌かと思ってました。
一方の「アブラカタブラ片思い」は不思議な歌です。女の子がボーイフレンドのために料理している曲ですが、「好きな男の子の家に勝手に入って勝手にご飯を作ってるんですって!」。こちらは曲自体も不気味ですから、素直にホラーな感じがします。
こちらのリミックスの副題は「魔女」です。すでに人間ですらない。やくしまるからは「もっと企んでいいよ」と言われたそうで、そこは声優としての経験値が大きく貢献したことでしょう。アニメの世界は企みに満ちていますから。
二人のコラボレーションは見事に正解でした。オリコン・チャートでは13位まで上がっています。最近のCDチャートは昔とは意味合いが違いますから、これくらいの順位というのはとても心地よい順位ということでしょう。
付属のDVDではPVが見られます。ほんわかした曲をのほほんと歌う花澤香菜の姿がほやほやと撮られていて何とも言えない味のあるPVです。リップシンクではなく、息継ぎのところだけ呼吸を合わせるという面白い技が使われています。
テレビを見ているだけでは分からないポップスの世界がここにあります。雑誌メディアもなかなか追いつかない。世の中はどんどん重層的になってきていて、面白いことこの上ない状況です。中毒性の高いこのシングルに出会えて嬉しいです。
(参照:CDジャーナル2015年1月号)
Kokyuutosu / Hanazawa Kana (2014 Aniplex)