いわゆるワールド・ミュージックの中でレゲエの占める位置は特異です。あまりに英米のロックやポップスの中に入りこんでいるので、どこかにお客さん的な響きのあるワールド・ミュージックという言葉が似合いません。しかし、それはこちら側からみた意見です。

 サード・ワールドはレゲエ界のスターですが、ワールド・ミュージックとしてのレゲエを信奉する原理主義者からは、フュージョン・レゲエとも呼ばれて評判がよろしくありません。欧米の音楽に接近しすぎているというのです。

 そんな世評ですけれども、彼らのセカンド・アルバムにあたるこの作品は名作のステータスを得ています。この頃のサード・ワールドはクールなルーツ・レゲエを演奏するハードコアなレゲエ・バンドでありました。

 サード・ワールドは、後に大きな成功を収めるバンド、インナー・サークルから飛び出した3人を中心に結成されました。1973年のことです。デビュー・アルバムを発表した後、ボーカルとドラムスが交代してセカンド・アルバムとなる本作の発表に至りました。

 バンド・メンバーには元副総理大臣の息子キャット・クーアが含まれているなど、彼らの出自は中流階級だったことが大きな理由で、なかなかレゲエ界のエリートの皆様には受け入れられなかったそうです。何かと苦労の多いバンドです。

 今ではこのアルバムの評価は確立していると言ってよいでしょう。ちょっとネットで検索してみるだけで、この作品が傑作と言われていることが分かります。同年に出たボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの「エクソダス」と並び称されています。

 彼らは後に「ラブ・アイランド」でスティーヴィー・ワンダーと共演するのですが、そのサード・ワールドを想像すると少し驚きます。この当時の彼らは最もルーツ・レゲエっぽかったと言われており、確かにかなりクールなゴリゴリのレゲエです。

 アルバム収録曲は1曲を除いて全ては彼らのオリジナル曲で、中でも邦題ではアルバム・タイトル曲となっている「華氏96度」が話題となりました。原題は「1865」、ポール・ボーグルの死刑が執行された年を題名にしています。

 ボーグルは英国の植民地だったジャマイカで、英国の圧政に立ち向かった英雄です。彼は華氏96度の暑さの中で処刑されます。♪いつか人々は気がつく。空に太陽が輝くのと同じくらい明らかだ。犠牲者としてここに立っているが、俺はけっして死にはしない♪

 民族のプライドをかけた見事なメッセージ・ソングになっています。この後、レゲエを世界に広める役割を果たしていくサード・ワールドのルーツと言ってよい作品でしょう。決して暗く重くなりはしませんが、芯の強いレゲエです。

 よく聴くと、ルーツ・レゲエではあるものの、この頃からR&Bとの親和性も高いことが分かります。そのことが、知的な印象を与えるクールな姿勢と相まって、レゲエにどっぷりはまっていない人にも分かりやすい作品を形作っているのだと思います。

96 Degrees In The Shade / Third World (1977 Island)