トニー・アレンは前年に自叙伝を上梓しています。本作はその自叙伝を締めくくる作品としての役割も果たしています。ですから「フィルム・オブ・ライフ」なんですね。自叙伝を音楽で映画化したともとることができます。

 冒頭の曲「ムーヴィン・オン」では、アレン自らがボーカルを披露して、過去のソロ作品のタイトルを順番に語っていきます。そして、♪ムーヴィン・オン♪ですから、過去は過去としてさらに前に進んでいこうと言っているわけです。

 アレンは74歳です。この歳にしてこのメッセージ。素晴らしいことではありませんか。しかも、本作品でもバリバリにドラムを叩いています。ジャケットの風貌にも深く年輪が刻まれていて、この顔を見ながら聴いているとその深みに溺れそうになります。

 アレンは20世紀の生んだ最も優れたビートの一つであるアフロ・ビートの創始者の座をフェラ・クティと共に分け合っている人です。フェラは亡くなってしまいましたが、アレンはこうして健在です。生きる伝説ではありますが、前に前に進んでいます。

 この作品には今や英国の重鎮となったデーモン・アルバーンが参加しています。アレンは2006年にデーモンと出合って以来、デーモンやクラッシュのポール・シムノン、レッチリのフリーといったミュージシャンとの共演を積極的に行っているんです。

 この作品には、デーモンとの共作曲が2曲含まれていて、そのうち1曲でデーモンがボーカルを披露し、もう1曲では可愛らしいメロディカを吹いています。いかにもデーモンらしい曲なのですが、アレンのアフロ・ビートにはピッタリです。

 そもそもこのアルバムのプロデュースはジャズバスターズというフランスのバンドに委ねられています。彼らはマリ出身のラッパーであるオクスモ・プッチーノのバック・バンドとして結成された3人組のバンドです。

 さらにエクゼキュティブ・プロダクションのところにクラフトワークの伝記を書いたパスカル・ビュッシーの名前も見えます。フランスにはこういう音楽を支える深いシーンがあるんですね。アレンのスネアはモンペリエの楽器製作者ギヨーム・カルバリドの手作りとも書いてあります。

 またラゴスを拠点に活動する女性コーラス・グループのアドゥニ・アンド・ネフェルティティや、アメリカ生まれのナイジェリア人歌手ククーがゲストで参加していて、故郷への目配りも忘れていません。

 アレンはドラム・ソロを見せつけるわけでもありません。「私はドラムでメロディーを作り出したいんだ。ドラムに歌わせたいんだ」と語っています。その言葉は見事に現実となっており、バタバタとした軽やかなリズムがしなやかに歌っています。

 ファンクやダンスからカンフーまで、あらゆる音楽をミックスして、出来上がった超現代的なアフロ・ビートは素晴らしいの一言です。バスドラを響かせたり、ドラム・ソロをとるわけでもありませんが、アレンの音楽印が刻印されています。とても豪華なアルバムだと言えます。

Film of Life / Tony Allen (2014 Jazz Village)