山下洋輔や坂田明が落語と通じているように、笑いとフリー・ジャズは相性がよいと思います。解放を一つの目論見とするフリー・ジャズですから、緊張からの解放を意味する笑いとは相通じるものがあるのでしょう。

 スティーヴ・レイシーはサックス奏者としてフリー・ジャズの世界で重きをなしている人です。アメリカ人で、60年代にはセロニアス・モンクとアメリカで行動を共にしていますが、アヴァンギャルドに転向した後の70年代にはヨーロッパで活躍しました。

 イタリアのプログレ・バンドのアレアとも共演しており、その縁もあってのことかと思いますが、イタリアのクランプス・レーベル直下のレーベルとして作られたディヴェルソから作品を発表しました。それがこの作品です。レイシー43歳の作品です。

 アルバム収録の曲は、サックスのソロが2曲、チェレスタで伴奏を付けた曲が2曲、伴奏テープとのコラージュが2曲の全6曲です。レイシーは50年代にはほとんど使用されていなかったソプラノ・サックスの可能性を追求しており、ここでもソプラノ・サックスを吹いています。

 スティーヴはポスト・フリーという言葉を初めて使った人でもあり、その世界では極めて高く評価されている人です。しかし、この作品はユーモアに満ちていて、とても楽しいアルバムになっています。それこそ笑いに満ちていると言ってよいと思います。

 裏ジャケットには「自分の作品を言葉で説明することはできない」という一文から始まる本人による解説が掲載されていて、これがまた実にユーモラスです。この解説を読みながら聴くと構えずに聴けて大変結構かと思います。

 たとえば、「束縛されて」というソロ曲は、「私の『古』女房であるイレーヌ・エービに束縛されて、という曲」です。バラードで始まりブルースに変わる構造は、「最期に髪も白くなり、知恵もついたというわけである」と描写されています。

 「猫のように」という曲は、「マリリン・モンローの肖像」という副題が冠せられていますが、解説にある通り、猫を表わす即興音が使われています。サックスで猫の鳴き声をまねているわけで、ところどころ本当に猫かと思うほどよく似ています。

 「上昇」は、パリのボーブールに建設中だったポンピドー・センターの建設現場で拾った音を録音して、その音をベースに5つのサックスを重ねて出来ています。建設現場の音はとてもインダストリアルな香りがします。当時のニュー・ウェイブ勢と通じるものがあります。

 「ドレスの裾」はジャニス・ジョプリンに捧げた作品です。「ちょっと気になる存在であった」ということですが、この取り合わせも意外で面白いです。レイシーさんの女性観が透けて見えるようですね。

 孤高の人スティーヴ・レイシーという先入観がありましたが、この作品は本当に楽しい音が詰まっています。自我からの解放を少しだけ味わうことができる見事な作品でしょう。呵々大笑しながら聴ける軽やかさが素晴らしいです。

Straws / Steve Lacy (1977 Cramps)

アルバムとは関係ありませんが、ソロということで、こちらを。