白状すると、エレクトリック・ライト・オーケストラのことを私はオーケストラだと思っていました。彼らのことをオーケストラだと紹介されたことがあるわけではありませんが、何せ名前がオーケストラですから、まだ中高生だった私は素直にオーケストラだと思っていたんです。

 当時の私にとって、それはすなわち興味なしということで、彼らの音楽を積極的に聴いてみたことはありませんでした。そこにラジオから流れてきたのが、この「オーロラの救世主」の表題曲です。オーケストラ違うやん、と思ったことが彼らの音楽を聴くきっかけとなりました。

 彼らのアルバムをそれから遡って聴いたので、この6枚目のアルバムが実は私のELO初体験です。オーケストラ違うやん、と思ったは思ったのですが、今になって思えば、やはりこの人たちはオーケストラかもしれません。ロックよりも一般の世間では地位が高そうです。

 本作品はELOにとっては初めて英国でトップ10入りしたアルバムです。長らく英国で冷遇されてきたELOがついにブレイクしました。一足先に米国ではブレイクしていましたが、ここでようやく一息ついたのではないでしょうか。自信も深まろうというものです。

 ELOはまさにこのアルバムの大ヒットによって、一躍トップ・バンドの仲間入りを果たし、結果的に70年代半ばから80年代半ばにかけて最も全米トップ40ヒットを放ったバンドと言われることになります。玄人向けの前史の世界とは違う世界になったんです。

 この頃のELOはジェフ・リンを中心としたバンドで、ストリングスを多用するシンフォニックなプログレ的ポップ・ロックを奏でていました。オーケストラの名前は伊達ではないわけです。一方でそのポップ・センスはいかにも英国風ひねくれポップでありました。

 しかし、ひねくれ具合はちょうどよく、これ以上捻ると一般受けはしなくなるだろうというぎりぎりの線に留まっています。美しいメロディーと大仰すぎないストリングスの使い方は天下一品で、ELOならではの味を醸し出しています。臆面もなくビートルズだったりもしますが。

 たとえば、「哀愁のロッカリア」という曲は、オペラ歌手メアリー・トーマスのハイトーン・オペラ・ボイスが聴かれます。歌い出しを間違えたテイクを採用するという茶目っ気まで含めて、重くなりすぎず、とても爽やかに聞こえてきます。

 この作品の頃のことを、ジェフは、「曲は溢れるほどに、しかもいとも簡単に思いついていた。あんなにも多くのヒット曲が作れたなんて、全く信じられないことだよ」と語っています。魔法にかかったように曲が湧き上がるという絶頂期にあったわけです。

 4曲のシングル・ヒットを生んでいますし、カットされていない曲も粒ぞろいですから、その絶頂期にあったことも素直に首肯できます。人生、乗っている時は凄いものなんですね。この絶頂期はまだしばらく続くことになります。

 ところで「オーロラの救世主」という邦題ですが、当該曲の原題とも歌詞の内容とも関係ありません。オーロラは恐らく彼らのロゴに使われている虹色からの発想だと思いますが、救世主は分かりません。アルバム・タイトルの「世界新記録」とも関連はなさそうですし、謎です。

編集:2021/8/21

A New World Record / Electric Light Orchestra (1976 Jet)