ザッパ先生の最後のロック・ツアーとなった88年バンドによるライブ盤です。このラインナップでの先行するアルバムには、「ブロードウェイ・ザ・ハードウェイ」があります。そちらは大統領選挙に間に合わせるために緊急発売されたものでした。

 このバンドは4か月に及ぶリハーサルを経て、88年2月から6月までアメリカ東海岸とヨーロッパをツアーしました。ベースのスコット・チュニスさんのあまりの変態ぶりに他のメンバーがついて行けずに途中で空中分解しなければ、米国西海岸や中部にも行ったはずでした。

 大所帯です。総勢12名で、ホーン・セクションが5人と充実しています。このメンバーでのツアーにはザッパ先生は大いに自信があったようです。そうでなければ、こんなタイトルをつけません。

 セルフ・ライナーには、かつてライブではビッグ・グループでもちゃんと演奏して歌ったもんだと書かれていて、この作品にはオーバーダブが一切ないと宣言されています。その力量には大いに満足していたのでしょう。
 
 88年当時と言えば、ザッパ先生は自らが癌に侵されていることをすでにご存じでした。それを思うと最後のツアーになると宣言されたことも理解できます。そんなバンドだったのに、内紛で空中分解してしまったことは残念です。

 もう一組このバンドのライブが発表されます。そちらと比べると、こちらの方はボーカル・バージョンと言ってよいでしょう。ボーカル曲主体の構成になっています。「エリック・ドルフィー・メモリアル・バーベキュー」という超ド級のインスト曲もあるんですが。

 いつにましてカバー曲が多いのが特徴です。それも「パープル・ヘイズ」「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」「天国への階段」という超有名曲が含まれています。しかし、どれも超有名ギタリストの曲ですけれども、ザッパ先生のギターは全く活躍しません。面白いですね。

 この他にラヴェルの「ボレロ」、ジョニー・キャッシュさんがゲストで参加して歌うはずだった「リング・オブ・ファイア」、ステージでのおふざけとなる「想い出のサンフランシスコ」や「ゴッド・ファーザー・パート2のテーマ」などバンドの達者さが際立ちます。

 ここで、「ロンサム・カウボーイ・バート」「モア・トラブル・エヴリィ・デイ」「ペンギン・イン・ボンデージ」の三曲がジミー・スワガート・ヴァージョンとなっています。スワガート師はテレビ伝道師で、ザッパ先生がペテン師として長らく攻撃対象としてきた人です。

 ジミーさんは、ちょうどこのツアーの始まる88年2月に売春婦となんやかんやの事件を巡って「私は罪を犯した」と告白しました。長年の仇敵が先生の言った通りの人間だったわけですから、ボルテージも上がろうというものです。

 このバンドがザッパ先生のキャリアの中でベスト・バンドかと言われれば異論を差し挟む人も多いでしょう。私もその一人ではあります。しかし、このバンドも見事なバンドですから、文句を言いながらも大いに楽しむことができます。聴いていて幸せです。

The Best Band You Never Heard In Your Life / Frank Zappa (1991 Barking Pumpkin)

これはうまい!