まさかのセルフ・カバー・アルバムが届けられました。簡単に音楽を届けられるようになった時代ですから、一般にもっとセルフ・カバーがあってもよさそうですが、川瀬さんは「個人的にはセルフカバーって一番やりたくなかった」とおっしゃっていますから複雑です。

 今回は、「60’sをキーワードにアコースティックでライブ感のある音像にしたいと思」ったと奥田さんが語っています。「カントリーミュージック、ブルーグラスなどのテイストを入れつつ、歌、演奏は生々しく、近くで演奏しているような感じを目指し」たそうです。

 60年代の受け止め方は結構人それぞれで、必ずしも私の思う60年代とは一致しません。特にカントリー・ミュージックは私には70年代以降です。変な話ですが。というわけで、タイトルにはかなり違和感があるのですが、そんなことを言っていてもしょうがありませんね。

 収められている楽曲は馴染みの深い曲ばかりです。出世作の「愛のある場所」と「冷たい花」から始まり、最新作から「ブルー・デイジー」、そして新曲の「ア・リトル・ワールド」まで、キャリアを俯瞰する選曲です。

 しかし、特にキャリアを総括するという制作態度ではなさそうで、とても気楽に昔作った歌を歌ってみましたというところではないでしょうか。そもそもブリグリの新作が遅れているところなので、ここで一つ若い人向けにブリグリを紹介するアルバムを出そうということだそうです。

 ブリグリの作品はかなり作り込まれたサウンドで出来ていましたから、アンプラグド的な今回のアルバムが彼らを若者に紹介することになるのかどうかはよく分かりませんが、昔から聴いている私のような者にはとても楽しいアルバムになっています。

 曲の骨格が露わで、シンプルな演奏ではあるものの、そこはさすがにブリグリです。音の響きにもこだわった工夫の凝らされたサウンドが聞こえてきます。しかし、それでも随分お気楽な感じがして、そこが経験のなせる技というか何というか、余裕を感じます。

 マンドリンやコンガが使われていますが、どちらも「初めて買って、初めて使った」そうです。何だか楽しそうですね。公式サイトに奥田さんのライナーノーツという形で各楽曲の工夫ポイントが書いてあるんです。職人ですねえ。

 こうして落ち着いた形で過去の名曲を並べて聴くと、改めてブリグリの音楽に対する姿勢が眩しく思えます。川瀬さんは相変わらずスランプだそうですけれども、こういう息抜き的なアルバムを制作すれば大丈夫でしょう。

 新曲は全部英語詞による作品です。ブリグリの新曲にしては、フェブラリーやヘヴンリー的でもありますが、軽やかな曲調は新作を予感させて嬉しい限りです。新曲がなければ、このまま落ち着いてしまいそうでしたから。

 確かにセルフ・カバーをアルバムにまとめて発表するというのは、時期を間違えるとみっともないことになる気がしますけれども、彼らの場合、さほど昔に執着していそうにないので、ひとえに楽しい試みになりました。聴いていて気持ちがよかったです。

The Swingin' Sixties / The Brilliant Green (2014 Warner)