「ゆらゆら帝国の」という形容がもはやあまり必要なくなった坂本慎太郎さんのソロ二作目です。今回は骸骨の写真をジャケットに持ってくるという趣向になっています。背景にはきのこ雲です。終末感が漂いますね。

 このアルバムのテーマは人類が滅んでしまった後の楽園ということだそうです。冒頭の「未来の子守唄」ですでにそのテーマが開示されていて、その後の流れもそういう方向で解釈できていきます。見事な統一感です。

 坂本さんの場合、歌詞が生々しく浮き上がってくる楽曲群ですから、どうしても歌詞中心のレビューが多くなります。「めちゃくちゃ悪い男」が巧妙に近づいて来たり、「義務のように」愛し合ったり、と歌詞のセンスが素晴らしいことは確かです。

 大たい曲名を並べるだけで、考えさせられます。「やめられないなぜか」「好きではないけど懐かしい」「もうやめた」。極めつけは「この世はもっと素敵なはず」です。「スーパーカルト誕生」後の物語として秀逸です。

 彼のボーカルの力が際立つわけですが、冒頭の「未来の子守唄」のボーカルはナカムラ・フーコさんという女性で、ゆらゆら帝国のエンジニアだった中村宗一郎さんの娘さんらしいですね。いきなり自分が歌わないという意表をついた展開で、さらにボーカルが際立ちます。

 そして最後は「この世はもっと素敵なはず」と歌詞カードを見なければ分からないヴォコーダーの声が延々と続きます。相当ボーカルに神経が使われていることが分かります。真打の坂本さんの声は決して美声ではありませんが、心地好い重さに仕上げています。

 今回のサウンドを特徴づけるのはスティール・ギターです。このアルバム発表に先立つこと1年半あまりの時期にスティール・ギターを通販で購入し、教則本片手に弾き方を勉強したのだそうです。

 通常は天国に結び付けられて語られることの多いスティール・ギターの音色を、こうして終末後の楽園に持ってきたところが坂本さんの真骨頂でしょう。歪んだパラダイスの雰囲気が濃密に漂ってまいります。

 演奏は基本的にアコースティックな楽器ばかりで行われていて、それもかなりスカスカでシンプルな音です。しかし、彼の特徴であるゆらゆら揺れるところは見事に健在です。新しい昭和というか、ダンス全盛の音楽界とは一線を画しています。

 これは初回盤だからなのか、ボーナス・ディスクとして全曲のインスト・バージョンが付属しています。ボーカルの力の強い人だけに、そんな試みが面白いのかと不安になりましたが、これはこれで素晴らしいです。演奏に対する並々ならぬ熱意を感じます。

 世界観は正直言ってさほど共鳴するわけではありませんが、この音楽には私はぞっこんです。言葉の使い方のセンスも素敵ですし、生楽器によるゆらゆら揺れるロック演奏は極上だと思います。

ナマで踊ろう / 坂本慎太郎 (2014 Zelone)