「五年後」というタイトル通り、ラルフ・タウナーとジョン・アバークロンビーのデュオ・アルバムが制作されたのは5年ぶりのことです。前作は1976年の「サルガッソー海」、久しぶりのデュオ復活となりました。残念ながら、「10年後」「20年後」はありません。

 ラルフ・タウナーとジョン・アバークロンビーはともに米国籍のギタリストです。タウナーさんはマルチ・プレイヤーですけれども、ここではギターに徹していますから、この作品は二人のギターだけからなっています。

 曲は全部で8曲で、そのうち、タウナーさんの作曲によるものが3曲、アバークロンビーさんの曲が2曲、二人のクレジットにされている曲は長さでは半分を占めていますが、曲数では3曲です。二人の共作曲は基本的には即興だということです。

 ギター・デュオだと聞き分けるのが結構難しいものですが、この作品は比較的簡単です。なんたって、エレキ・ギターを弾いている方がアバークロンビーさん、ということですから。タウナーさんは頑固にアコギ一徹です。

 この二人のデュオ・セッション活動は、70年代の半ばに始まり、90年代の中頃まで断続的に行われています。同じギタリストで、歳も4つくらいしか離れていませんから、一歩間違えば犬猿の仲でもおかしくありませんが、二人は仲がよさそうです。

 タウナーさんがエレキ・ギターを弾かなくなったのは、アバークロンビーさんに似合わないと言われたからだという話があります。相当仲良くなければ言えない一言ですね。ましてやその後も共演しているわけですし。

 二人のギターのスタイルはやはり違います。アバークロンビーさんの方は、典型的なジャズ・スタイルで、かつR&B的な香りもします。一方、タウナーさんはクラシカルなスタイルです。タウナーさんはもともとピアニストとしてキャリアを始め、ワールド・ミュージックへの接近も果たした人で、あまりジャズっぽくはありません。

 そんな二人のギター・バトルが繰り広げられるわけですから、同じギター、同じジャズ界ではあるものの、異種格闘技的な感覚があります。熱い熱いバトルで聴く者を圧倒するというわけではなくて、抑制のきいたクールなバトルが素敵です。

 サウンド自体はECMらしい広がりのある澄んだ世界です。それぞれのギタリストの持ち味がうまく溶け込んで気持ちがよいわけですが、特に後半部分が良いです。LPを持っているとすると、B面ばかり聴いていそうな気がします。

 いきなり引き込まれるというよりも、じわりじわり来ますから、聴き進めるにしたがって感動が広がっていきます。私はもともとスロースターターなのですが、特にこの作品を聴くといつも後半から盛り上がって来ますので、何だか前半悪いことしたと思って、前半部を聴き直したりします。

 とてもECMレーベルらしい作品だと思います。ジャケット写真も素晴らしい。
 
Five Years Later / Ralph Towner, John Abercrombie (1982 ECM)