ダラー・ブランドの代表作「アフリカン・ピアノ」は日本でも大そう評価が高く、1973年度スイング・ジャーナル誌のディスク大賞で銀賞をとりました。このことが契機となって、ダラー・ブランドさんの初来日が実現することになりました。

 この作品はブランドさんの東京コンサートの第二夜、芝の郵便貯金ホールでのライブを収録したものです。発売元のイースト・ウィンドは日本フォノグラムのレーベルで、日本のアーティストを海外で売り出そうと設立されました。そして外国のアーティストの日本ライブも積極的に紹介しています。本作はその一つです。

 「アフリカン・ピアノ」が評価されての来日ですから当然ソロ・ライブです。ブランドさんが弾くのはもちろんピアノですが、ここでは竹笛の演奏も少し行っています。それと時々入るうめき声をボーカルと呼ぶならば、ボーカルも担当しています。

 CDのトラック・カウントは11ありますが、前半と後半、LPとしてA面とB面がそれぞれ一つながりになっています。前者が「アフリカ」と題され、後者は「リフレクション」と題されています。

 驚いたのはB面です。アフリカじゃないんですね。A面はタイトル通り、「アフリカン・ピアノ」を彷彿とさせるアフリカ的な演奏なんですが、B面は最後を除いてアフリカではありません。何と言っても最初の2曲はデューク・エリントンの曲です。

 「アフリカン・ピアノ」とは実は曲のだぶりは1曲のみで、それも何とB面の方ですけれども、A面の方が素直な流れとして聴くことができます。「アフリカン・ピアノ」の変奏曲としてお馴染みのブランドさんのピアノを堪能できるんです。

 そこにB面です。考えてみればブランドさんのデビュー作は「デューク・エリントン・プレゼンツ・ダラー・ブランド」なんですね。彼の好きなミュージシャンはエリントンとセロニアス・モンクだといいます。ブランドさんはアフリカ人ではあると同時にジャズの人なんですね。当たり前ですが。

 ブランドさんが戦っていたアフリカへの偏見というのはジャズ的にみると、繰り返しを許容するかどうかだということです。「繰り返しなどはもってのほかで、どんどん発展していかねばならぬ、と当時の人々は確信していた」ので、「10分間も同じことを繰り返してばかりいる」のはアフリカからきたプリミティブな人間だからだと言われていたわけです。

 「だから私は自分の音楽を理解してもらうために、次の世代が来るまで待たなければならなかった」ということです。次の世代は繰り返しこそが本質だと言う人々でしたね。今や、音楽に繰り返しはなくてはならない知的な営為になっています。ブランドさんの勝ちです。

 そんなブランドさんが、エリントンに始まり、繰り返しで終わるB面を演奏しているのが面白いです。前作からのブランド節が少し中断して、「おやっ」と思わせる。そこがアクセントになっていてとてもいいです。

 気合が入りまくっていた「アフリカン・ピアノ」ほどではありませんが、リラックスしたムードで奏でられるピアノはむんむんしていてやはり素晴らしいです。気分が良いです。 

African Breeze / Dollar Brand (1974 East Wind)

適当な動画が見当たらないので、以前にもご紹介した「アフリカン・ピアノ」からです。