$あれも聴きたいこれも聴きたい デス・メタル、と門外漢の私は簡単に分類してしまいますが、彼らの音楽はマスコアと呼ばれているそうです。メタルコアの複雑ヴァージョンらしいです。メタルコアはハードコアもしくはヘヴィ・メタルから派生しました。ついてきてくれてますか?書いてる本人にもよく分かりません。

 ロロ・トマーシは、2005年にイギリスで結成されたバンドで、バンド名は映画のキャラクター名だそうです。このバンドの特徴は、何と言っても可愛らしい女性エヴァ・スペンスのデス声です。写真で見る限り、とてもそんな声で歌う女性には見えません。折り目正しいポップス顔です。

 この作品は彼らの3枚目のアルバムです。日本では「残響」というレーベルからの発売です。こういう系統のバンドが主体のレーベルだと思われる、なかなかお洒落なレーベルです。頑張ってほしいものです。

 サウンドは比較的聴きやすいハードコアなメタル・サウンドだと思ったんですが、解説によれば、「マス特有の変拍子と急展開はときにドラマティックなプログレまでの荘厳さを醸し出し、多重面相のように様々な顔を覗かせる」サウンドです。

 エヴァの歌声はデス声ばかりではなくエンジェル声も使い分けています。そのエンジェル声で歌うところなどは、確かに耽美系ニュー・ウェイブ・サウンド、たとえばコクトー・ツインズのように聞こえます。様々な顔ですね。

 バンドの中心はエヴァとその兄のジェームス・スペンスの兄妹です。彼らにはさらに妹が二人いるそうですが、音楽の嗜好は全然違うそうです。母方か父方かわかりませんが、その系統が違うんでしょうね。

 今作ではギターとベースが交代したことで、「バンド全員が同じ方向を見て、もっと構築的に音を鳴らすことができたと思う」とのことです。「一体感を持ったサウンドになって、バンドとして強くなれたと実感してる」わけです。

 そして、「今回は最初から生で再現することをイメージしてたの」とはエヴァの弁ですが、驚きですね。これまでは「ライブでやることを考えずに曲を作っていた」そうで、「演奏中に『このパートたるいな、早く終わらないかな』なんて感じ」ることはなくなったと。バンドをやってる皆さん、そんなもんなんですか。

 この作品を聴いていると、とにかく若さが炸裂していて、心が洗われるような気がします。演奏もアマチュアっぽい感じがありますし、エネルギーの向かうベクトルが極めて真正面です。歌詞も、もちろん英語ですが、日本語に例えれば漢語を多用しているところに生硬さが現れています。そんなところも可愛らしくて素敵です。

 イメージのギャップも狙ったものではないと思いますし、気持ちのいい若者たちによるなかなか素敵な音楽だと思います。複雑なのかもしれませんが、聴きやすいサウンドですから、恐れずに聴いてみましょう。

(引用はCDジャーナル2013年11月号)

Astraea / Rolo Tomassi (2012 Destination Moon)