$あれも聴きたいこれも聴きたい 結構、ブログのテーマの欄をどうしようか迷うことがあります。このティム・ヘッカーなどはその最たるもので、クラブで活躍されていることをもって「クラブ系」としてみましたが、昨日のビーンフィールドなどとはかなりサウンドは違います。

 むしろ、最近ご紹介したところではクラシック畑のエイナウディなどに近いところもあります。ジャンル分けなど意味がないと思われるかもしれませんが、クラブとクラシックではオーディエンスが天と地ほども違いますから、重要です。

 ティム・ヘッカーさんはカナダ生まれのアーティストで、96年以来、さまざまな音響仕事をやってきました。公式サイトのバイオによれば、彼の仕事は、「構造化されたアンビエント」「色付き構造プレート」「教会電子音楽」などと称されるそうです。

 彼が行っているのは、ノイズ、不協和音と旋律の交差点を探求することであり、物理的であると同時に感情に訴える曲作りへのアプローチを涵養することです。彼は大学で「都会とノイズ」をテーマに博士論文を書いていますから、学究的なアプローチでもあります。

 この作品は、レイキャビク、モントリオール、シアトルの三都市にわたり、主にスタジオでのアンサンブルのライブを使って制作されています。ヘッカーさんの意図は、管楽器、ピアノ、シンセサイザーを使って、デジタル音楽が出来ない、時間、旋律、位相のはずれた音楽をやろうとした模様です。若干、訳に自信がありませんが、プレス・リリースはそうなっています。

 また、時に初期のミニマル音楽が持っていた神学的な志向も顔を見せますが、これは疑似教会音楽ではなく、むしろ、「ゆったりと流れる乳香もしくは洞窟で明滅する燐光のサウンドを再現しようとする試みのようなもの」だということです。力が入っています。

 分かりにくい説明をしてしまいました。しかし、このアルバムのサウンドをよく表していることは間違いありません。一言で言ってしまうと、ドローン音を中心としたアンビエントな音楽なんですけれども、ドローン音が一般に使われるようなサウンドではなく、荒々しさも持ったノイズ系のサウンドです。

 そのサウンドが時にパイプオルガンの音のように響くところが教会音楽的な表情を示すところです。アンビエントの常として、音の響きを大切にした音楽なので、まるで教会の中で反響を聴いているような気になってきます。

 くっきりしたリズムはなく、ゆったりと音の響きに身を任せていると、時に美しい旋律が立ち現われてきて、耳を奪います。そこらあたりが、とてもとても美しいです。そして、エイナウディなどの現代音楽にとても近いものを感じる所以です。

 ジャケットの薄ら寒い情景のように、一見荒涼としたサウンド・スケープですけれども、実はとても分かりやすいニュー・エイジ音楽的なところもほの見える美しい作品です。ゴシック的な要素も満載で、耽美系の音楽が好きな人にもお勧めです。

Virgins / Tim Hecker (2013 Kranky)