$あれも聴きたいこれも聴きたい フィリピンは地震や台風の被害で大変なことになっています。犠牲者の方々の冥福をお祈りするとともに、一刻も早い復旧・復興を願っています。

 フィリピン好きな同僚に言わせれば、世界で一番歌がうまい国民はフィリピン人です。もう「ビヨンセなんかめじゃないですよ」とまで言っていました。それはどうか別にしても、ジャーニーやブラック・アイド・ピーズにはフィリピン出身のボーカルがいますね。それにフィリピンに行けば、町中に歌が溢れています。ポップス大国であることは疑いなさそうです。

 先日、フィリピンに行った時に、ミュージック・ショップのお姉さんに、「今、フィリピンで一番人気のある歌手のCDをください」と言ったところ、間髪を入れずに「サラ~」と言われて、最新作を手渡されました。それがこのアルバムです。

 サラ・ジェロニモはフィリピンの国民的なアーティストです。2歳の頃から子役として活躍していた彼女は、わずか14歳にしてフィリピンの歌謡コンテストである「スター・フォー・ア・ナイト」で優勝します。2003年のことです。

 以来、10年間順風満帆な歌手生活を送り、俳優としてもフィリピン中から愛される模範的なお嬢さんとして活躍しています。ボクシングの国民的英雄マニー・パッキャオの試合の前に国歌を歌ったり、故アキノ大統領のお葬式でも歌うという大役を担ったと言えば、その愛されぶりが分かるというものです。

 さらに続ければ、大統領から賞ももらっていますし、数々の音楽賞も受賞しています。非の打ち所がありません。ただ、若い人のロール・モデルを続けるのは時には辛いこともあるでしょう。アルバム・ジャケットに印刷された彼女の言葉の最初は「10年経ったなんて信じられない」です。

 フィリピンの今のポップスは、OPM、オリジナル・フィリピノ・ミュージックと言います。基本は歌です。当たり前の言い方ですけれども、サウンド優先が今の風潮ですから、少し前の音楽のイメージです。この作品で、サラはキャロル・キングの名曲「君の友だち」をカバーしています。そうなんです。70年代のポップスの風情があります。

 もちろんサウンドは打ち込みなども使っていて、古めかしいわけではないのですが、佇まいは昔の美しかったバラード中心のポップスの世界なんです。今や日本や英米のポップスからは失われてしまった、正統派の歌の世界がここにあります。それにエスニックということではなく、ストレートな王道ポップです。

 サラは英語やタガログ語で正統派ポップスを見事に歌っていて、とても気持ちがいいです。何か新しさを追求しようというよりも、ただいい歌を歌いたい。そういう素直な欲求がストレートに表れています。さすがは国民的歌手ですね。

 カバー曲は一曲だけで、後はオリジナルだと思います。どれもよく出来ています。サラも曲づくりにも参加すれば、プロデュースにも携わるという活躍ぶりです。そして「君の友だち」はなんとお父さんとのデュエットです。微笑ましい限りです。お父さんも若いし。

 というわけで、正統派ポップスが聴きたければ、フィリピンに行きましょう。
 
Expressions / Sarah Geronimo (2013 Viva)