$あれも聴きたいこれも聴きたい 2012年に大ヒットしたインド映画のサントラです。前年にはわずか1作しか映画音楽を残していないラフマーン先生ですが、この年は何作か発表していて、その中でもこの映画が一番ヒットしました。驚くべきことに、巨匠ラッシュ・チョプラ先生との初共演です。ちょぷら先生はこの年に亡くなりましたから、最初で最後の共演ですね。

 PVをご覧ください。スーパースターのシャールク・カーンがロンドンで暴れまくっています。最後の方にヒロインのカトリーナ・カイフが少しだけ出てきますね。そして最後は爆弾が爆発。シャールクさんは爆弾処理屋さんなんです。

 これだけの情報で、いろいろな映画が思い浮かんできます。インド映画によくあるステレオタイプなドラマだろうということが想像できるわけですけれども、おそらく面白いだろうなあと思います。ベタをベタにやってベタに面白い。それがボリウッドです。

 相変わらずラフマーン先生の音楽は上品です。彼によれば、この作品は、いつもの彼のスタイルとインド人の観客が喜ぶ古い魅力と魂をもった音楽のコンビネーションだということです。確かにバランスよく楽曲が並べられています。しかし、彼の作品はいつもそういう感じじゃなかったでしょうか。

 久しぶりに新しいボリウッド音楽を聴いてみて、プレイバック・シンガーの世代交代が進んでいるのだなあと思いました。この作品では、もちろんシュレヤ・ゴシャールやジャヴェッド・アリなどの叩き上げの有名歌手もいますけれども、新しめの人も多いです。

 それに、私の一押し、冒頭の曲「チャルラ」はラビ・シャーギルが歌っています。プレイバックではない独自の音楽活動をやっているアーティストです。モヒット・チョーハンもバンド活動からキャリアを始めた人、ラガヴ・マトゥールはインド系カナダ人でカナダで活動しています。ハーシュディープ・カウルやニーティ・モハンはテレビのスター発掘番組の経験者です。

 シルパ・ラオはタイムズ・オブ・インディア紙曰く「流行りの若くて無名な歌手の中で最も有望な歌手」です。こう言われるということは、そういう波が来ているということでしょうね。インドの場合は、世代交代は容易ではありません。プレイバック・シンガーの寿命が何十年に及ぶんです。しかし、着実に歩みは進んでいるということでしょう。

 それに歌手の声もいろんなバラエティーが出てきました。このアルバムではシャクティシュリー・ゴパランという女性歌手の低めの声が魅力的です。彼女もオーディション合格組ですが、古典もモダンも歌いこなすアーティスト・タイプです。

 というように、インドの映画音楽界も少しずつ変わってきているわけですが、ラフマーン先生の音楽は相変わらず素晴らしいです。魅力的なメロディーとインド的なリズムの組み合わせが軽やかに舞っています。インド古典から品の良さだけ受け継いでいる感じで、オーケストラの音もエレクトロニクスの音も、繰り返しますが上品です。

 サウンドの構築も見事で、ラフマーン先生の素敵な作品がまた一つ増えました。

Jab Tak Hai Jaan / A.R.Rahman (2012 Yashh Raj)