$あれも聴きたいこれも聴きたい ふらりと録音現場に現れて、わーっと演奏して帰っていく、そんな姿にはやはりサックスやトランペットが似合います。ドラムやアンプを背負って現れるわけにはいきませんし、ギターなんかだとたいていメンバーがいますしね。

 70年代から80年代にかけて、ロックやポップスのアルバムでテナー・サックスやトランペットが鳴っていれば、たいていそれはブレッカー・ブラザーズだったというくらい、二人は引っ張りだこな兄弟でした。二人そろう場合もあれば、一人だけのこともありますが、どちらかの名前をアルバムのクレジットに見ることが本当に多かったです。

 お兄さんがトランペットのランディー。彼は学校でクラシックのトランペットを習いましたが、大学時代にジャズに転向、そのまま学校をやめてヨーロッパを放浪した後、アメリカに帰ってプロの道に入りました。ブラス・ロックのブラッド・スウェット・アンド・ティアーズがキャリアの始めですかね。

 弟の変な恰好をしているマイケルは、R&Bとジョン・コルトレーンに入れ込み、1970年に家を出てニューヨークに向かい、ビリー・コブハムのバンドに入ったことからキャリアをスタートさせます。

 兄弟は74年の後半にブレッカー・ブラザーズを結成し、フュージョン・シーンを代表するグループとなりました。この作品は、彼らの4作目にして初のライブ・アルバムです。彼らは82年に活動を停止しますが、90年代に復活します。兄弟ですからね。ただ、マイケルは2007年に亡くなりましたので、もう再結成はありません。合掌。

 このアルバムでの話題は何と言っても変態ドラマー、テリー・ボジオの参加です。三人は、フランク・ザッパさんの「ライブ・イン・ニューヨーク」で共演しており、それが縁となってテリーがこのアルバムに参加したということです。他にギターとベースを加えた5人組の演奏です。

 テリーさんは超絶ドラマーですから何でもできますけれども、基本はロックです。一方、ブラザーズはロックもポップスもお手の物ですが、根はジャズの人たちです。というわけで理想的なフュージョンです。両方から歩み寄ってスパークする感じです。

 ブレッカー兄弟の演奏は多くのミュージシャンのアルバムで聴き慣れているはずですけれども、こうやってまとめて聴くのは新鮮です。もう吹きまくってます。特に彼らの代表曲「サム・スカンク・ファンク」では二人とも凄いです。

 解説の熊谷美広さんは「豪快でキレまくったテナー・ソロはマイケル・ブレッカーがサックス・シーンの頂点に立ったことを宣言しているかのような名ソロだ」と絶賛です。「1分58秒あたりから始まるフレイズ」がすごいということなので、タイムをにらんで聴いてみました。確かに凄いです。

 全体を通して、ランディーのトランペットも負けておらず、さらにはテリーも叩きまくるという、スポーツのようなフュージョンの傑作であります。何か凄いですわ。

Heavy Metal Be-Bop / The Brecker Brothers (1978 Arista)