$あれも聴きたいこれも聴きたい 今日は友人のお葬式に行ってきました。仕事の同僚でしたけれども、バイクにロックと趣味が合う人で、そっち方面でもいろいろとお付き合い頂きましたから、ことのほか早すぎる死が悼まれてなりません。

 この作品は、インドの至宝ラヴィ・シャンカール師が、同じくインドの至宝である映画監督サタジット・レイ師に捧げた一枚です。この作品のあらかたを録り終えた92年4月23日の夜、サタジット・レイ師の訃報に接したシャンカール師は、最後の曲を彼に捧げることとしました。

 それがアルバム冒頭に収められた曲「フェアウェル・マイ・フレンド」です。サタジット・レイの名前を世界に轟かせた処女作にして名作「大地のうた」のためにシャンカール師が作曲したテーマ音楽のメロディーと、もう一つ別のメロディーをミックスさせたという美しい演奏です。

 ケースの裏には二人の巨匠が談笑している素晴らしい写真が掲載されています。国外の人が思っているほど、二人はインド国内で圧倒的な存在ではありませんが、この二人は映画と古典音楽と分野は違えど、インドの深い深い世界を、インド国外に大きく知らしめることになった巨人です。シャンカール師も鬼籍に入ってしまいました。心よりご冥福を祈りたいと思います。

 この作品は、純粋にインドの古典音楽です。シャンカール師のシタール演奏を収録した作品で、シタールとともに奏でられるのはご存じメロディーも奏でることのできる打楽器タブラと、ドローンを奏でる弦楽器タンプーラだけです。伝統的なスタイルですね。このタンプーラ奏者のクレジットには娘さんのアヌーシュカ・シャンカールの名前も見えます。

 私は、一度だけ、シャンカール師の演奏を聴いたことがあります。90歳近い頃でしたから、まさに晩年の演奏でした。ニューデリーの野外で行われた演奏会で、超満員の観客を前に、娘のアヌーシュカと二人で仲良くシタールを奏でるという心温まる演奏会でした。

 もう左手が十分に上げられないからと、小さなシタールを使っていらっしゃいましたし、これが最後のコンサートかもしれないと冗談めかして語られていましたが、その演奏は年齢による衰えなど感じさせない、むしろ進化しているのではないかと思わせる見事なものでした。私も鳥肌がたちましたが、観客の興奮はそれはそれは凄いものでしたよ。

 この作品にシャンカール師が自ら曲の解説を書かれていますが、私には実はちんぷんかんぷんです。インドの古典音楽の世界は西洋の古典音楽の世界と並ぶ、いやそれ以上に歴史の古い広大かつ深遠な世界です。生半可な理解では人に語ることはできません。

 しかし、インドの古典音楽は現代に生きています。形式墨守の世界ではまったくありませんから、今の時代を呼吸しています。ですから、理論的なことは分からないまでも、音楽の素晴らしさを堪能することは誰にでもできます。それに、シャンカール師は、海外にインド古典を広めた人だけあって、同じ曲を演奏していてもとても分かりやすく思えます。

 友の死を悼む、そんな夜には、恰好の美しい一枚かと思います。天国から旋律が聞こえてきます。

Farewell My Friend / Pt. Ravi Shankar (1992 Saregama)