$あれも聴きたいこれも聴きたい ミス・アメリカです。いえ、実際にタイトルを取ったというわけではありませんが、このアルバムが発表された頃、リンダは疑いなくアメリカを代表する歌姫でした。

 前作「風にさらわれた恋」の後に出されたグレイテスト・ヒッツはロング・セラーを記録しており、この作品への期待が高まっていました。期待に違わず、見事に全米1位を5週間も続け、1年近くチャートインし続けるという大ヒットです。シングルとしても、「イッツ・ソー・イージー」と「ブルー・バイユー」がトップ10ヒットを記録して、とにかく大成功でした。

 今回もピーター・アッシャーによるプロデュースで、西海岸の気心のしれた面々がバックを務めます。曲によっては、JDサウザーやイーグルスのドン・ヘンリーといった所縁の人がゲスト参加していまして、とってもウェスト・コーストな香りが漂っています。

 皮肉なことにウェスト・コーストの終焉を描いた「ホテル・カリフォルニア」で盛り上がったウェスト・コースト・サウンドの最上の姿がここにあるように思います。何となく西海岸と言えば太陽が燦々と輝いているイメージを持つのですが、音楽の世界は比較的夕暮れ時が似合います。黄昏のスケボー。

 この頃のリンダさんのアルバムは比較的どれも構成が似ていて、スタンダードというかオールディーズのカバーが大きな位置を占めます。そして、ウォーレン・ジボンのような比較的地味な西海岸系アーティストの曲をじっくり聴かせる。歌唱力だけで持っていってしまうので、余計な工夫は要らないとばかりです。見事なものです。

 この作品では、オールディーズはバディ・ホリーの「イッツ・ソー・イージー」とロイ・オービソンの「ブルー・バイユー」。シングル・ヒットした二曲です。前者はロック、後者は情念のバラード。どちらもリンダの見事な歌い上げによってむしろこちらがオリジナルになりました。

 さらにストーンズの「ダイスをころがせ」が目を惹きます。リンダはミック・ジャガーと噂があったようで、ミックに「ロックが足りない」と言われて、「あんたはバラードが足りない」と言い返したという有名な逸話とともに語られる曲です。演奏が西海岸なので、私などには違和感があるのですけれども、歌唱は見事です。

 ウォーレン・ジボンの曲は2曲、「カルメリータ」と「私はついてない」です。私はウォーレンが大好きなので、こうしてリンダが歌ってくれるととても嬉しいです。印税が入ったでしょうし。いい曲ですよ。何で彼が売れないのかが分からない。

 リンダ・ロンシュタットはドイツとイギリス、そしてメキシコの血をひいていると言います。やはりメキシコが注目です。テックス・メックス系と言いますか、ラテンの血と言いますか、一味違う濃い歌唱はメキシコという国名が出てきて初めて腑に落ちるというものです。

 この作品は、そんなメキシコ風味をまぶしつつ、ウェスト・コースト・サウンドの粋が詰まった見事な作品です。演奏の一音一音がぴちぴちしていて、それに情念のボーカルが絡み合う。まことに至福の時が流れていきます。70年代のウェスト・コーストには神様が降りていたのでしょうかね。

Simple Dreams / Linda Ronstadt (1977 Asylum)