$あれも聴きたいこれも聴きたい
 前作から1年弱といういつものペースで発表されたザ・フォールの1995年の作品です。レーベルは前作と同じですけれども、何とかなり久しぶりに日本盤がリアルタイムで発売されました。輸入盤の国内盤仕様でしたが、画期的なことです。

 その時に使われていたのが、「マンチェスターの愚痴男」というありがたくない称号です。随分な言い様ですけれども、大そうはまっているので思わず唸ってしまいました。同じようにザ・フォールを愛でている人がいるのだなと妙に感激したのでした。

 さて、このアルバム、なんとブリックス・スミスが復活しました。マークの元奥さんで、1989年に脱退してから約5年ぶりの復活です。本名はローラ・エリス・スミスなので、作曲のクレジットにはLEスミスと書かれています。

 この復活劇に関するマークとブリックスの双方の言い分は大筋では合っているのですけれども、微妙なずれがあって面白いです。ブリックスは当時、カート・コバーンの奥さんだったコートニー・ラヴと一緒にホールというバンドをやっていました。

 「ホールなら週1000ポンドでも払えるだろうけど、フォールなら50ポンドだ。それでも彼女はこっちを選んだ」とマークはご満悦です。当時、マイクはギタリストを探していましたが、そのタイミングで突然ブリックスが電話をかけてきたそうです。

 「本当はオアシスに入りたい若者」を雇うよりはと、勝手知ったるブリックスに即決したということです。マークに言わせるとブリックスはホールに辟易していたことになっていますが、ブリックスはコートニーのことを悪く言っていません。

 しかし、ブリックスがマークに電話をしたのは、ザ・フォールの熱烈なファンだった歌手のフレディー・ジョンソンがブリックスのためにフォールのレコードを買ってきて、素晴らしさを再認識させてくれたので、「あんたは凄い」と電話する気になっただけです。

 いずれにしてもこの作品では、ブリックスは5曲を共作していますし、ギターも弾けば、歌ってもいる。マークによればバンドのメンバーは自分の子供のようですが、ブリックスだけは対等の関係にあります。そんな人が戻ってきたザ・フォールの新境地やいかん。

 まあさほど変わっていません。強固なフォール節は健在です。自由闊達な「ボンカーズ・イン・フェニックス」だとか、一丁目一番地の「ザ・ジョーク」、ブリックスのことを歌ったわけではないという「ドント・コール・ミー・ダーリング」、「フィーリング・ナム」と名曲揃いで嬉しそうです。

 ジャケットも感じが変わりましたが、このイメージはこのところずっとジャケットを担当しているパスカル・ルグラスによるものです。しゃれこうべとスパイクです。同じ人だけれども、ちょっと変わったぞとそんなところがアルバムを象徴しているようです。

 残念ながら、英国のチャートに顔は出しましたけれども、前作、前々作ほどは売れませんでした。ファンの間では、例によって、賛否両論相半ばする作品です。というわけで目立つ作品じゃないんですけれども、私はこれも大好きです。

Edited on 2020/10/24

参照:"Renegade" Mark E. Smith (Penguine)

Cerebral Caustic / The Fall (1995 Permanent)