$あれも聴きたいこれも聴きたい 新作が出たならばとりあえず買っておくけれども、すぐには聴かない。テデスキ・トラックス・バンドは私にとってはそんなバンドです。待望の新作ではありますが、大きな変化を期待するわけではないので、CD棚に並んでいる旧譜のように聴く。そしてはまる。

 本作品はテデスキ・トラックス・バンドの2枚目のスタジオ作品、ライブが1枚ありますから、3枚目のアルバムということになります。メンバーは前作の総勢11名から、残念ながらベースを担当していたオールマンズ仲間のオテル・バーブリッジが脱退してしまいました。

 しかし、脱退の理由は家族が出来たので一緒にツアーをすることが難しくなったというもの。また将来は一緒にやろうということで、とってもファミリーな理由です。そもそもスーザンとデレク夫婦が一緒にいたいがために始めたバンドですから、何よりも家族の価値を第一に考える、そんなバンドらしいエピソードになっています。

 メーカーの資料によれば、「バンドとしての方向性が定まった」作品とされています。ジャケットは機関車に真っ向勝負を挑むバイソン、表題も「メイド・アップ・マインド」、決心したぞと決意のほどがひしひしと伝わってきます。

 それで大きく変わったのかというと、もちろんさほど大きく変わったわけではありません。大らかなサザン・ロックは健在ですが、前作と比べると、曲が短めになりました。スーザンのボーカルが圧倒的に中心の座を占めています。デレクのギター・ソロがしっかり入ります。曲の型が出来上がってきたと言えます。

 一方でアルバムの後半におかれている「ストーム」などは、見事にジャムっていまして、バンドの底力を遺憾なく示しています。スーザンの歌声はますます自信に満ちてきていて、ハスキーな声で歌われるバラードは素敵にブルースしています。

 ブラス・セクションやスーザン以外のボーカル陣は決して大活躍しているというわけではありませんが、実に渋いところを聴かせてくれます。ソロはご夫婦のみといった風情です。しかし、大所帯の絆は深いようです。

 これまでサザン・ロックやウェスト・コーストのいろんなバンドがファミリーを強調してきましたが、ドラッグやら何やらで、どうにも落ち着いたファミリー・バリューを発揮できてこなかった気がします。そこへ行くと、このバンドは夫婦を中核としていることもあって、理想的なコミュニティーを形成しているように思えます。幸せな音です。

 このバンドはアメリカでは人気が高くて、グラミー賞も受賞しましたし、トップ10近くまでヒットしています。ところがイギリスなどではさっぱり売れません。そんなところもいいですね。ディープなアメリカの感じがします。

 米国のアルバム評を見ていますと、ヒップホップの匂いが全然しないところがいいと書いてありました。変に若い人に売れようとしてヒップホップを取り入れたりしないのが彼らの矜持でしょう。この意見には全く同意するところです。

 何とも素敵なアルバムを出してくれたものです。私のライブラリにまた名作が加わりました。

Made Up Mind / Tedeschi Trucks Band (2013 Masterworks)