$あれも聴きたいこれも聴きたい ジャケットをチラ見しただけだと、日本男児の9割くらいは仮面ライダーの怪人だと思うのではないでしょうか。ドレッド・ヘアで結われた髷は被り物のようですし、こぶしを上げたポーズは怪人のトレードマークです。

 一時期、このソウルIIソウルの傑作ばかり聴いていた時期がありました。そんなに遠い昔でもなくて、アルバムが発表されてから20年近く経ってからのことです。何故だか無性にグラウンド・ビートが恋しくなったんです。

 人を食ったアルバム・タイトルだと思いましたが、今となっては過不足なくアルバムの性格を表しています。クラブ・クラシックス。まさにその通りです。ユニット名はもともとは「コヴェント・ガーデンのアフリカン・センターで行われていたレア・グルーヴ・ムーヴメントの中核を担っていたイヴェント」のタイトルです。

 「アシッド・ハウスが猛威を振るう頃、UKではレア・グルーヴと呼ばれるムーヴメントも活況を迎えて」いました。「ファンクやソウルの古い音源をリヴァイヴァルさせる動きがあり、それがレア・グルーヴ・ムーヴメントだと大雑把に言うことが」できます。珍しい溝、珍しいレコードですね。それを牽引したDJの一人がジャジーB、ソウルIIソウルは彼が自ら音を作り出したユニットです。

 時は1989年、このアルバムが英国で1位になったことが、いよいよロックを表舞台から引き摺り下ろした、そんな気さえします。英国の音楽界はパンクからニュー・ウェーブを経て、ロックがいよいよ息詰まっていた頃です。

 マンチェスター・シーンなんていうのもありましたが、ロンドンではクラブ・シーンがいよいよ隆盛を極め出した頃。このアルバムが大成功を収めたことで、おそらくロックは若者たちが聴く音楽の一つにしかすぎなくなったのではないでしょうか。馬鹿にしていたディスコがこんなになると思った人はそうはいないに違いありません。

 そんな歴史的なアルバムですが、当時はまだロック幻想をひきずっていた私なので、熱心に聴いた記憶がありません。恐らく無意識に耳を閉じていたのだと思います。ただ、怪人ジャケットがどこかでずっと気になっていました。

 今となってはいつ頃から私の生活に入ってきたのか定かでありませんが、クラブ・ミュージックを熱心に聴きだして、突如クラシックに目覚めたということだと思います。何だか恥ずかしい話ですね。

 この作品にはあのビョークのサウンドを支えるネリ・フーパーと日本を代表する屋敷豪太さんが参加しています。その後の彼らの活動がこのアルバムから垣間見えるかと言うとそんなことはありませんが、まあいろいろと考えさせられる布陣には違いありません。そしボーカルはキャロン・ウィーラーです。

 アルバムの謝辞が、全てのサウンドマンとDJに捧げられていて、前者が自分のオリジン、後者が自分の今だと書いてあります。味わい深い言葉です。そういう生い立ちからのサウンドだということです。

 ゆったりと重く沈み込むようなグラウンド・ビートは見事な発明です。変な言い方ですが、新しいレア・グルーヴ。そのビートに身をまかせているとえもいわれぬ快感なわけですが、アゲアゲなディスコとは違うとてもクールでおしゃれな音作りはどこまでも知的です。肉体と頭脳の理想的なコラボレーションがここにあるように思います。凄いアルバムですね。

(引用は「クラブ・ミュージック名盤400」リットー・ミュージックより)

Club Classics Vol.1 / Soul II Soul (1989 10)