$あれも聴きたいこれも聴きたい 実は私は楽器が全くできません。ですから技術的なことは今一つよく分かりません。コード進行がどうとか、時々書いていますが、誰かがそう書いてくれていないと自信をもって書くことができません。

 楽器が出来る友人に「これいいよね、何か独特な雰囲気だよねえ」と言ったところ、「お前、これ、音が外れてるだけだよ」と言われて恥ずかしい思いをしたことまでありました。しかし、それでよいではないですか。聴き手としては極めて幸せです。演奏技術が下手でもさほど気にはなりません。文化祭で高校生バンドを見ても感動したりできますから。

 そんな私ですが、このシャッグスの演奏が普通の意味で「上手」でないことはよく分かります。楽器の出来る人なら悶絶するんでしょうね。私にはそんなことはどうでもよいことです。これは凄いです。異形の音楽。たいていの音楽はBGMにできるでしょうが、この作品だけは無理です。これを聴きながら何か他のことをするのはとても難しいです。

 フリー・ジャズやら現代音楽などで音楽の実験はやりつくされた感がありますから、もはや音楽を聴いて「全く新しい」と感じることなどないと思っていました。しかし、こんなのもあるんですねえ。いやあ本当にびっくりしました。もう40年近く前の作品ですが、今でも驚きます。

 シャッグスは米国のウィギンズ家三姉妹のバンドです。父親の夢をかなえるべく、学校を辞めて一日中音楽の勉強を続けて到達したのがこの作品です。初回自主制作盤は結局100枚くらいしか出回らなかったそうですが、後に知る人ぞ知るNRBQのテリー・アダムスに再発見されて、今に続くカルト的な人気を集めました。

 あのフランク・ザッパ先生も「ビートルズよりもよい」と語っています。

 アルバムのタイトルは「世界の哲学」、素晴らしいセンスです。この作品を前にして哲学しない人はいないでしょう。誰もが皆「音楽ってなんだろう」と自分の狭量さを責めずにはおられません。所詮は答えのない問題、聴き終わると答えのでないままに、哲学した気分だけが残り、一つ賢くなっている自分がいます。重いアルバムですね。

 サウンドの方は何とも形容のしようがありません。天然変拍子。即興ではなく、作曲された作品群であること、レコーディングでは間違えたと言っては何度もやり直していたというエピソードがあること、再結成ライブでは譜面を見ながら演奏していたこと、相当な時間を音楽の練習に費やしていたこと、全てが驚きです。

 どうしたらこのような音楽が出来るのでしょう。一つ言えるのは、この作品がとても純粋で、愛に満ちているということです。普通にかわいらしい女の子の日常を語っている歌詞の世界にも愛が溢れています。

 人生に思い悩んだ時に、部屋を暗くして、シャッグスを聴くと、とてもやさしい気持ちになれると思います。お友達のフット・フットが現れるはずです。究極の癒しのアルバム。シャッグスはあなたを愛してくれます。

Philosophy Of The World / The Shaggs (1969 Third World)