$あれも聴きたいこれも聴きたい 近所の公園には休日になるとロカビリーの一団が現れます。2013年ですが。みんな楽しそうだなあとは思っていましたが、うちの娘が「かっこいい、踊ってみたい」と言ったのには不意をつかれました。時代は一巡して、かえって新鮮なんですね。

 うちの娘と同世代でニュージーランド生まれのウィリー・ムーンさんは、9歳の時に1週間東京に滞在しました。そこで、当時、渋谷や原宿で見られたロカビリーに「強いインパクトを受けたんだ」そうです。

 「振り返ってみると、オリジナルに忠実なだけじゃなくて自分なりに解釈し、好きにやること自体が新しいアートになるんだってことが、あの時にわかったんだと思うよ。」ということですから、創作の根本にまで影響を受けたことになります。

 なんでしょう、この音楽。私は「イェ・イェ」のPVを見て、あまりのカッコよさに感動し、思わずアルバムを買ってしまいました。公式サイトの表現を使うと、「1965年のロックンロールが冷凍され、45年後にラップトップ・ヒップホップ・プロデューサーの手によって突然生き返らせられたようなサウンド」、ロカビリーとEDMの出会いです。

 60年代初期のロックンロールの香りはするのですが、トラックはほぼ完全にコンピュータです。プログラミングを手伝っているのは、イギリスのプロ・トゥールス使いでセッション・ドラマーのエイメリー・ラマザノグルです。彼はマイケル・ジャクソンやシャキーラなどとも係わりのあるくらい有名な人です。

 ウィリーはまだ24歳ですが、学校をドロップ・アウトした後、ニュージーランドからロンドンに移り住んだり、モロッコに行ったり、ベルリンで暮らしたりとボヘミアンな人生を経験してきています。そんな中で60年以前のポップスや古いジャズに入れ込んで、自身のスタイルを築いていきました。

 マイスペースで披露した楽曲がアイランド・レコードの眼にとまったことで、プロ・デビューを果たすと、2012年にはiPodのコマーシャルに彼の曲が使われて一躍注目を集め、こうしてデビュー・アルバムの発表に至りました。いい話です。

 このアルバムは全12曲で30分以下、1曲が2分程度とコンパクトな楽曲のカッコいいことカッコいいこと。「僕が曲を作る時には、すぐに核心に入るもの、その曲の本質をできるだけピュアに、ストレートに表現するものにしたい」が故の短さ。潔くていいですね。

 そこはかとなくロカビリーを感じさせながら、サウンドは現代のもの。現代のテクニックで過去を焼直しているのではありません。現在進行形の音です。R&Bのスクリーミング・ジェイ・ホーキンスの「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」のカバーなどでも、とても悪魔的な仕上がりの響きとなっていて、これが新しい。

 見た目はロカビリーよりももっと前、ジャンプやジャイブの頃の香りもしますし、ヨーロッパ系プロレスラーの凄味も感じます。シャープに尖った佇まいがそのまま音楽にも表れていて、とてもカッコいいです。見上げた若者です。

*引用は、「けてぃっく」さんのインタビュー記事(http://www.qetic.jp/music/willy-moon-2/95907/ )より

Here's Willy Moon / Willy Moon (2013 Island)