$あれも聴きたいこれも聴きたい ブルキナ・ファソは西アフリカの内陸国です。以前はヴォルタ川の上流を意味するオート・ヴォルタという国名でした。首都ワガドゥグはかつて栄えた王国の中心地でした。何にもないところですが、のんびりしているいい国だと住んでいる日本人はいいます。

 寺久保エレナさんは、2011年3月にブルキナ・ファソで40度の暑さの中で演奏活動をしています。ちょうど東日本大震災の時にあたります。ブルキナの貧困と祖国の惨状に若い彼女はいろいろと考えることが多かったと言います。のほほんとしたイメージとは真逆でした。

 「アフリカに行くと人間が変わると言いますが、分かる気がします」とブログに書かれていますが、大震災と重なっていたのであれば、二重三重に衝撃も大きかったことでしょう。その時の現地体験をもとにした自作曲が「ブルキナ」、アルバムのタイトル曲です。

 アルバム冒頭に置かれた約9分にわたるこの曲は凄いです。彼女のこれまでのアルバムとは随分違う激しい演奏です。解説の市川正二さんは「その迫力はジョン・コルトレーン&エルヴィン・ジョーンズの激突をほうふつとさせる」と書かれています。あまりピンと来たわけではないのですが、とにかく迫力があるという点では同意いたします。

 これまでの彼女のアルバムはもう少しキラキラ・モードだったと思うんですが、この曲ではより襞が深くなった心の内が生々しく表現されています。とても力強く成長していく彼女の姿が手に取るように分かります。素晴らしいですね。

 このアルバムは、「ブルキナ」を中心に制作された彼女の三枚目のアルバムです。2011年9月には日本人初のプレジデンシャル・スカラーシップ生として、学費や寮費全額免除でバークリーに入学していますから、在アメリカ初のアルバムということになります。

 彼女は、何回も音楽に救われたということで、このアルバム制作時にはブログで「自分ばかり音楽に助けられるいるだけではなく、私も音楽を通して、世界中の人たち、一生会う事も無いかもしれない人たちにも、愛と勇気を届けるアルバムを作ります」と宣言しています。

 メンバーはピアノのケニー・バロン、ベースのロン・カーター、ドラムスはジミー・コブとレニー・ホワイト。ケニーとはデビュー作から、ロンとは2作目からの付き合いです。いずれも名うてのミュージシャンが、寺久保さんと息もぴったりに密度の濃い演奏を繰り広げています。

 自作曲は3曲。「ブルキナ」の他には、同じくアフリカの体験に触発された「ウォームス」。この曲はゆったりしたテンポで、アフリカの大地を思わせる、よりスピリチュアルな曲です。精霊が舞っているようです。そして、ケニーとロンのソロもフィーチャーした「ステイ・ビューティフル」。

 ほかの曲は見事にスタンダードです。彼女のヒーローであるチャーリー・パーカーやキャノンボール・アダレーが演奏していた曲や、ヘンリー・マンシーニの「酒とバラの日々」なんていう意表をついた曲もあります。このあたりは前作と同じような選曲ではあるのですが、何といっても冒頭の「ブルキナ」のムードが全編を覆っているので、よりどすの利いた演奏になっています。

 まだ21歳。恐るべき才能です。正面から堂々とジャズとがっぷり四つに組んで見事です。フリー・ジャズじゃないジャズがここまで面白いのはとても新鮮です。

 アルバムを聴きながら、彼女の祈りがかなうことを願わずにはいられません。

「世界では、私たちの想像を遥かに超える悲惨な事が起きています。どうか、いい音楽が彼らに届きますように。和な世の中になりますように。」

Burkina / Erena Terakubo with Legends (2013 Eighty Eight)