$あれも聴きたいこれも聴きたい
 本作品はLPの限界に挑戦した作品でした。何がと申しますと、収録時間です。一定の音質を保つため、アナログ・レコードには通常45分くらいしか収録しないのですが、この作品では55分を越えています。そのため本人も音質が劣ると認めています。それでも55分。

 そこまでして詰め込まざるを得なかったところにトッド・ラングレンのこだわりを感じます。行き当たりばったりだったらしい前作とは異なる気合というものを感じます。「魔法使いは真実のスター」は最初からやりたい放題だったトッドがこれまでの作品に訣別を告げた作品です。

 本作品はドラッグによる実験でもあったようで、トッドの内面世界で鳴り響いているサウンドを表現したということです。すがすがしいほど正面からサイケデリックなお話です。時は1973年、この頃にはまだまだサイケデリックの余韻が強く残っていました。

 しかし、そこはトッド流サイケデリックです。実験的な音づくりをしていても、ポップに踏みとどまっています。よくなぞらえられるフランク・ザッパとはちょっと違います。随所にくせのある美しいメロディーが顔をだしますし、実験部分も軽やかにポップです。

 この作品ではまずA面が一大組曲「世界的意識」です。12曲がクレジットされていますけれども、ひとつながりの録音です。B面もその余勢をかってくっきりとしたまとまりがあり、あたかもコンセプト・アルバムであるかの面持ちです。前作よりもはるかに統一感があります。

 「世界的意識」は最初と最後に同じメロディーをもってきて、間に10曲の短い曲をはさむサンドイッチ形式の組曲です。はさまれている具は、実験的なインストゥルメンタル曲「犬の笑い」、ボードヴィル調の「ゼン・アーチャー」、バラッド、ロックといろいろあります。

 ただし、何か明確なコンセプトがあるようでない。ただただ次々に曲が現れては消えていきます。頭の中をありのままに表現するということはそういうことでしょう。とはいえ無造作な並びではありません。これ以外にはありえない順番で曲が並んでいます。

 B面にはカーティス・メイフィールドやスモーキー・ロビンソンなどのソウルの名曲を原曲に忠実にカバーしたメドレーが入っています。トッドの声はフィリー・ソウル向きかもしれません。ポップな曲を歌うシンガーとしてのトッドが目指しているのはこの世界なんでしょう。

 そしてアルバムの最後を飾るのは、長らくトッドのコンサートを締めくくることになる超名曲「たった一つの勝利」です。♪僕たちに必要なのはたった一つの勝利♪という人生訓を歌にのせて、聴くものの胸を打つ素晴らしい楽曲です。ちょっとためたサビは本当に素敵です。

 曲ごとのクレジットはありませんが、前作のセッション編から引き続いて、ブレッカー兄弟やリック・デリンジャーなどが参加しています。一人で全部ということにこだわらず、アルバムの完成形を目指して適材適所に人を起用しています。スタジオ・ライヴではなさそうです。

 この時期のトッドはグランド・ファンクのプロデュースなどで大いに売れっ子になる時期です。その時期に前作とはまるで異なるサイケデリックに彩られた実験的な作品を発表するところがトッドらしいです。商業的には今一つでしたが、傑作であることは確かです。

A Wizard, A True Star / Todd Rundgren (1973 Bearsville)

*2013年7月30日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. International Feel 世界的意識
02. Never Never Land
03. Tic Tic Tic, It Wears Off 時は流れる
04. You Need Your Head 大事なのは頭だよ
05. Rock And Roll Pussy
06. Dogfight Giggle 犬の笑い
07. You Don't Have To Camp Around キャンプなんてつまらない
08. Flamingo
09. Zen Archer
10. Just Another Onionhead / Da Da Dali たまねぎ頭の方がまし:ダ・ダ・ダリ
11. When The Shit Hits The Fan / Sunset Blvd. ファンがだまされた時には:サンセット通りへ
12. Le Feel Internacionale 必要なのは世界感覚
13. Sometimes I Don't Know What To Feel 何をどうしたらいいんだろう
14. Does Anybody Love You?誰のためにおしゃれするの
15. Medley : I'm So Proud / Ooh Baby Baby / La La Means I Love You / Cool Jerk
16. Hungry For Love 愛に飢えて
17. I Don't Want To Tie You Down 君をしばりたくない
18. Is It My Name? それが俺の名なんだろうか?
19. Just One Victory たったひとつの勝利

Personnel:
Todd Rundgren
***
Mark 'Moody' Klingman
John Siomos
Jean Yves Labat
John Siegler
Ralph Schuckett
Rick Derringer
Randy Brecker
Mike Brecker
Barry Rogers
David Sanborn
Tom Cosgrove
"Buffalo" Bill Gelber