$あれも聴きたいこれも聴きたい
 剣呑なジャケットです。これを考え出したのは、トッド・ラングレンがプロデュースした当時はまだ新人バンドだったスパークスの変態親父ロン・メイルです。スパークスとトッド、これまたポップの世界に君臨する巨頭同士が早々に組んでいたというロック相関図です。

 本作品はトッドの二枚目のアルバム、「ラント:ザ・バラッド・オブ・トッド・ラングレン」です。相変わらずラントを名乗っていますけれども、セイルズ兄弟のうち、ベースのトニーはともかく、ドラムのハントはわずかに1曲のみの参加です。これもまたトッドのソロ扱いです。

 なお、アルバムの大半でドラムを叩いているのはノーマン・スマート、米国の重量級バンドであるマウンテンの初代ドラマーです。こんなところにもロック相関図が表われてきます。マウンテンとトッド、ミートローフとトッドへの伏線かもしれませんね。

 私が若い頃、このアルバムは日本では幻のアルバムでした。発表当時は国内盤の発売はありませんでしたし、私はこの作品の存在すら知りませんでした。輸入盤店でもめったに見かけることはなかったそうで、たまに出物があるととんでもない高値がついていたそうです。

 しかし、本作品はトッドのアルバムの中でも1,2を争う大いに人気のある作品ですから、今ではもちろん容易に手に入ります。くどいほどあちらこちらで名盤だと紹介されており、国内盤としても何度も何度も再発を重ねています。時の流れを感じます。

 この作品は、タイトルが示している通り、バラッドを中心とした作りになっていて、前作に比べると曲調にも統一感があります。メロディー・メーカーとしてのトッドの魅力を存分に味わうことができます。メローなシンガー・ソングライターとしてのトッドの代表作です。

 一番人気がある曲はシングル・カットされた「ビー・ナイス・トゥ・ミー」でしょうか。これまた何とも直截なタイトルの楽曲です。音楽はひねりにひねるトッドですけれども、歌詞の方は比較的ストレートなものが多いです。「チェイン・レター」のようなひねった歌詞もありはしますが。

 私の一押しトラックは「ウェイリング・ウォール」です。「嘆きの壁」をタイトルにしたピアノの弾き語りで歌われる名バラッドです。最後の曲「リメンバー・ミー」とともに、タイトルに偽りなしを宣言する象徴的な名曲だと思います。裸のメロディーが素敵です。

 演奏は前作同様にベースとドラム以外はほとんど全ての楽器をトッドが一人で演奏しています。今ではコンピューターを使えば簡単にできてしまうのかもしれませんが、この頃はエンジニアとしての才覚と経験のあるトッドならではの荒業です。

 バラッドを中心とした全体に統一感のある作品です。よく聴いてみるとさまざまな仕掛けがなされているようで、解説を書いている鈴木博文氏は、これはポップ調、これはニール・ヤング風、これはブリティッシュ・ロック風とミュージシャンならではの分析を披露しています。

 とはいえ、後のトッドの作品群に比べると、いわば極めてストレートなポップ・ロック・サウンドばかりが集められています。それが名作になるのですからトッドのメロディー・メーカーとしての才能はいかばかりか。くせの強い作品を期待するとやや面食らいますが。

Runt. The Ballad Of Todd Rundgren / Todd Rundgren (1971 Ampex)

*2013年7月28日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Long Flowing Robe
02. The Ballad (Denny & Jean)
03. Bleeding
04. Wailing Wall
05. The Range War
06. Chain Letter
07. A Long Time, A Long Way To Go
08. Boat On The Charles
09. Be Nice To Me
10. Hope I'm Around
11. Parole
12. Remember Me

Personnel:
Todd Rundgren : vocal, piano, clavinette, guitar, tom-toms, cabasa, cowbell, pump organ, chimes, mandolins, waldo the singing guitar, maracas, beer can, bottles, slide guitar, fiddles, good old c&w imagery, the putney timpani, massive gong, tenor sax, baritone sax, vibes, teensy cymbals, Swiss hand bells, orchestra bells, triangle, sand blocks, tambourine, jingle bells, Wurlitzer electric piano
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Tony Sales : bass, conga, tambourine, vibraslap
N.D. Smart : drums, timbales, maracas
Hunt Sales : conga
Jerry Scheff : bass
John Guerin : drums