$あれも聴きたいこれも聴きたい 少し前のことになりますが、2013年のグラミー賞授賞式で演奏した新人バンドの中では、このアラバマ・シェイクスが断然光っていました。ボーカルのブリタニー・ハワードの迫力は凄まじくて、生きのいい新人さんに出会えたものだとテレビの前で嬉しくなりました。

 アラバマ・シェイクスは米国アラバマ州の田舎町の高校で始まりました。ブリタニーは、「ベースが弾けて、だれも聴いたことがないかっこいいバンドのシャツを着ていた」ザック・コックレルに出会います。そこに町で唯一の音楽ショップに勤めていたパンク・ドラマーのスティーヴ・ジョンソンが加わってデモを作りました。

 そのデモが「彼女の高校で一番のバンド」のリード・ギタリスト、ヒース・フォッグの手に渡ると、彼はシェイクスに前座を務めるように依頼します。その交換条件として、ヒースにシェイクスでもギターを弾いてもらうことになって、4人組のアラバマ・シェイクスが誕生しました。最初のショウは凄かったようです。

 彼女たちはその後地道な活動を続けました。そして、「ユー・エイント・アローン」がネットにアップされて、大変なことになっていったということです。そうして、これが彼女たちのデビュー・アルバムになります。

 少し聴くだけで驚きます。ルーツ・ロックと言われることには違和感があるのですが、アメリカの60年代から70年代のディープなロック・サウンドが展開されています。おまけに、ブリタニーの歌声は伝説のジャニス・ジョプリンを彷彿とさせます。凄い表現力です。

 サウンド自体も当時の音です。何でも、当時の音を再現しようと、ビンテージもののミキシング・ボードを買ったそうです。最初はブリタニーの家にセット・アップしたものの鉄道が近くを通っていたので使えなかったという微笑ましいエピソードがあります。

 そのエピソードはともかく、かなり意識しているんですね。その試みは大成功を収めていて、たとえばビートルズの後期と同時代の録音だと言われても信じてしまいそうになります。特にギターの味のある音が素晴らしいです。

 彼らのファンを公言しているのが、かのアデルやボン・イヴェールだというのもよく分かります。マムフォード・アンド・サンズがイギリスのルーツだとするとこちらはアメリカのルーツです。曲はブリタニーの凄い歌と、ビンテージなギター、それに泥臭いリズムを生かした見事な正統派アメリカン・ロックなんです。大陸を感じますね。

 ところで、彼らはもともとはデヴィッド・ボウイ風の曲やプログレなどもやっていたそうですし、ライブでは、ジェイムス・ブラウンやオーティス・レディング、レッド・ツェッペリンからAC/DCなどのカバーも披露しているようです。ちょっと想像ができない取り合わせに見えます。

 ぜひ、そんなライブ盤も聴いてみたいものです。彼らは私の世代にも何の違和感もなく自然に聞こえてくる素晴らしいバンドです。今後の活躍を祈りたいです。ジャニスと似ているのは歌だけにしてほしい。

Boys & Girls / Alabama Shakes (2012 ATO)