$あれも聴きたいこれも聴きたい
 秀逸なジャケットです。今にも虫の声が聴こえてきそうです。虫たちが一番賑やかなのはちょうどこのくらいの時間です。構図といい、ピントといい、けして褒められた写真ではないのかもしれませんけれども、とにかく素敵です。ジャケットもクラスターの作品です。

 ブライアン・イーノはハルモニアのことを「世界で最も重要なロック・バンドだ」と言ったと伝わっています。1976年にはクラスターのスタジオ、フォルストでハルモニアとのセッションを行っていることは周知の通りです。フォルストへは何度も訪問していた模様です。

 本作品は、1977年6月に制作されたイーノとクラスターのコラボレーション・アルバムです。題して「クラスター&イーノ」です。ただし、本作品はフォルストではなく、ケルンにあるコニー・プランクのスタジオで録音されています。シャイアの郷フォルストではないんです。

 また、一曲だけですが、カンのホルガー・シューカイがベースで参加しています。また、クラスターの長年の友人であるアスムス・ティーチェンスがそのアシスタントだというオッコー・ベーカーとともにシタールで、これまた一曲だけ参加しています。少々開放的です。

 イーノはフォルストの田舎生活をずいぶんエンジョイしていたようですが、今回、三人はプランクのスタジオを選びました。昔から録音機材を揃えて研鑽を積んできたプランクのプロダクションはやはり魅力的だったのでしょう。クラウトロックの立役者です。

 実際、クラスターとしての前作に比べると音響がずいぶんと広くて深い印象です。イーノの色が出ているともいえるのですが、サウンドの表情はプランク印が強いと思います。聴けば聴くほどその深さにからめとられてしまいそうになります。凄いものです。

 基本的には、これまでと同様に、さまざまな機材を用いてエレクトロニクスを多用したインストゥルメンタル・アルバムですが、のちのアンビエント音楽に先駆ける作品として、さまざまに解釈される作品でもあります。イーノのアンビエント・シリーズはこの少し後に始まります。

 クラスターとしての前作に比べると、リズムが退き気味な分、アンビエント的でもあります。メロディーもより抽象的になってきています。しかし、まだまだ可愛らしくて、茶目っ気があります。ギターやピアノなどのアコースティックな楽器も聴かれ、オーガニックな響きもあります。

 さらにティーチェンスのシタールも耳を奪います。シタールの残響たっぷりのサウンドはそのままでアンビエントであり、電子音楽との相性も抜群です。さらに、ゲストを交えない曲でも、ちょっとした工夫がさまざまになされており、本作品を楽しいものにしています。

 イーノは後に自身のアルバム「ビフォア・アンド・アフター・サイエンス」に、このセッションの音源を使った「バイ・ザ・リバー」なる曲を収録しています。イーノとクラスターが相互に影響しあったことがよく分かります。後のアンビエント・ミュージックへの影響も甚大です。

 とにかくポジティブで優しくて美しい作品です。いつもと変わらず、意味性を排除して、ひたすらサウンドを置いていった風情がまぶしいです。三人の個性が見事に溶け合った傑作は、時を経るごとにその評価が高まってきました。いつまでも色褪せないことに驚きます。

Cluster & Eno / Cluster & Eno (1977 Sky)

*2013年4月25日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Ho Renomo
02. Schöne Hände 美しい手
03. Steinsame ムラサキ
04. Wermut ニガヨモギ
05. Mit Simaen
06. Selange
07. Die Bunge 魚梁
08. One
09. Für Luise ルイーゼのために

Personnel:
Hans-Joachim Roedelius
Dieter Moebius
Brian Eno
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Holger Czukay : bass
Okko Bekker, Asmus Tietchens : sitar