ヨーロッパ文化に憧れを抱く者ならば、1920年代戦間期のパリ、すなわち「狂乱のパリ」には思い入れが強いことでしょう。かく言う私もその仲間の一人です。
その時代、この作品のテーマとなったにパリのキャバレー「屋根の上の牛」に集った面々の名前を並べるだけで眩暈がします。行きますよ。覚悟はいいですか。
マルセル・プルースト、アンドレ・ジイド、ルイ・アラゴン、アンドレ・ブルトン、レイモン・ラディゲ、ジョルジュ・シムノン、ポール・クローデル、トリスタン・ツァラ、ルネ・クレール、マン・レイ、フランシス・ピカビア、パブロ・ピカソ、フェルナン・レジェ、アンドレ・ドラン、マリー・ローランサン、ココ・シャネル、コンスタンティン・ブランクーシ、マルセル・デュシャン、イザドラ・ダンカンなどなどなど。
音楽家でない人だけあげてみました。これにキャバレーの顔となるジャン・コクトーが加わります。よだれが出そうですね。こんな場所に間違って入った日には昇天しそうな気がします。こんな時代があったんですねえ。
この作品は、フランス人タローさんが、この時代のパリを祝福するために制作したものです。このキャバレー自身は、六人組の一人ダリウス・ミヨーがブラジル旅行から帰って作ったバレエ曲の名前を拝借したもので、バレエの台本も書いたジャン・コクトーが毎晩のようにここを訪れ、瞬く間にホットなスポットになったものです。
20年代のパリの音楽への一番の影響はアメリカから渡ってきたジャズでした。ヨーロッパの前衛的な芸術家たちがこぞって生の喜びに熱狂した時代、それを象徴するのがジャズでした。このキャバレーでは、ジャズの影響を色濃く映した音楽が演奏されました。
ここでのタローさんは、ジャン・ヴィエネールとクレマン・ドゥセというこのキャバレーで演奏していたピアニストの曲を中心に、ミヨーやラヴェルに加えて、ガーシュウィンやコール・ポーターといったアメリカの作曲家の曲やシャンソンなどを演奏しています。厳密な考証よりも、「屋根の上の牛」の精神を重んじた選曲が見事です。
アルバム制作に集った面々は、「理想的なガーシュウィンの翻訳家」フランク・ブラレイ、「屋根の上の牛」での常連シャンソン歌手イヴォンヌ・ジョージのユーモアを再現したシャンソン歌手ジュリエット、フランス訛りを誇張して歌ったこれまたシャンソン歌手のベナバール、喜劇歌手のギヨーム・ガリエンヌなどいろんな分野から集められています。
現代最高のソプラノの一人ナタリー・デセイは、「ブルース・シャンテ」をスキャット(?)で歌っています。驚くなかれ、当時もバンジョーの演奏者がいたということで、ここではデヴィッド・シュヴァリエがバンジョーを奏でます。
聴いていますと、当時のパリに行った気になります。参加しているミュージシャンが実に楽しげに演奏しているのが伝わってきて、心が浮き立ちます。ざわざわした中で聴きたいですね。隣で、マン・レイとデュシャンがチェスをしていて、ピカビアが水をかけにくるとかそんな中で聴けるといいですねえ。
アメリカのジャズとは同じようでいて、やはり違う。背負うものが違うだけにこちらはより自由です。そのスタイルが強い影響を与えていて、血や肉の部分はヨーロッパのまま。そんなところまでしっかりタローさんは再現しています。見事なピアノさばき。
タローさんのおじいさんはバイオリニストでオーケストラの一員でしたが、この時代にカフェやダンス・ホールで演奏もすれば、レイ・ヴェンチュラのジャズ・バンドと録音もしたそうで、そんなおじいさんへのトリビュートともなっています。
これは素敵なアルバムです。
Le Boeuf Sur Le Toit - Swinging Paris / Alexandre Tharaud (2012)
その時代、この作品のテーマとなったにパリのキャバレー「屋根の上の牛」に集った面々の名前を並べるだけで眩暈がします。行きますよ。覚悟はいいですか。
マルセル・プルースト、アンドレ・ジイド、ルイ・アラゴン、アンドレ・ブルトン、レイモン・ラディゲ、ジョルジュ・シムノン、ポール・クローデル、トリスタン・ツァラ、ルネ・クレール、マン・レイ、フランシス・ピカビア、パブロ・ピカソ、フェルナン・レジェ、アンドレ・ドラン、マリー・ローランサン、ココ・シャネル、コンスタンティン・ブランクーシ、マルセル・デュシャン、イザドラ・ダンカンなどなどなど。
音楽家でない人だけあげてみました。これにキャバレーの顔となるジャン・コクトーが加わります。よだれが出そうですね。こんな場所に間違って入った日には昇天しそうな気がします。こんな時代があったんですねえ。
この作品は、フランス人タローさんが、この時代のパリを祝福するために制作したものです。このキャバレー自身は、六人組の一人ダリウス・ミヨーがブラジル旅行から帰って作ったバレエ曲の名前を拝借したもので、バレエの台本も書いたジャン・コクトーが毎晩のようにここを訪れ、瞬く間にホットなスポットになったものです。
20年代のパリの音楽への一番の影響はアメリカから渡ってきたジャズでした。ヨーロッパの前衛的な芸術家たちがこぞって生の喜びに熱狂した時代、それを象徴するのがジャズでした。このキャバレーでは、ジャズの影響を色濃く映した音楽が演奏されました。
ここでのタローさんは、ジャン・ヴィエネールとクレマン・ドゥセというこのキャバレーで演奏していたピアニストの曲を中心に、ミヨーやラヴェルに加えて、ガーシュウィンやコール・ポーターといったアメリカの作曲家の曲やシャンソンなどを演奏しています。厳密な考証よりも、「屋根の上の牛」の精神を重んじた選曲が見事です。
アルバム制作に集った面々は、「理想的なガーシュウィンの翻訳家」フランク・ブラレイ、「屋根の上の牛」での常連シャンソン歌手イヴォンヌ・ジョージのユーモアを再現したシャンソン歌手ジュリエット、フランス訛りを誇張して歌ったこれまたシャンソン歌手のベナバール、喜劇歌手のギヨーム・ガリエンヌなどいろんな分野から集められています。
現代最高のソプラノの一人ナタリー・デセイは、「ブルース・シャンテ」をスキャット(?)で歌っています。驚くなかれ、当時もバンジョーの演奏者がいたということで、ここではデヴィッド・シュヴァリエがバンジョーを奏でます。
聴いていますと、当時のパリに行った気になります。参加しているミュージシャンが実に楽しげに演奏しているのが伝わってきて、心が浮き立ちます。ざわざわした中で聴きたいですね。隣で、マン・レイとデュシャンがチェスをしていて、ピカビアが水をかけにくるとかそんな中で聴けるといいですねえ。
アメリカのジャズとは同じようでいて、やはり違う。背負うものが違うだけにこちらはより自由です。そのスタイルが強い影響を与えていて、血や肉の部分はヨーロッパのまま。そんなところまでしっかりタローさんは再現しています。見事なピアノさばき。
タローさんのおじいさんはバイオリニストでオーケストラの一員でしたが、この時代にカフェやダンス・ホールで演奏もすれば、レイ・ヴェンチュラのジャズ・バンドと録音もしたそうで、そんなおじいさんへのトリビュートともなっています。
これは素敵なアルバムです。
Le Boeuf Sur Le Toit - Swinging Paris / Alexandre Tharaud (2012)