$あれも聴きたいこれも聴きたい-Matching Mole 02 このジャケットは、共産主義アートです。「勝利を確信して躍進しよう!」とでも言っているかのようです。ロシア構成主義というよりも東洋的、やはり中国ですね。アルバム・タイトルの「リトル・レッド・レコード」は、「リトル・レッド・ブック」すなわち「毛沢東語録」のもじりです。

 リーダーのロバート・ワイアットは後に共産党員になりますが、この頃はまだそうではありません。このジャケットはレコード会社のデザイン部が選んだんだそうで、ややこしいことこの上ありません。将来を予見していたのかも。

 それはさておき、このアルバムは、マッチング・モウルの二枚目のアルバムです。デヴィッド・シンクレアが抜けて、前作でゲスト扱いだったデイブ・マクレエが正式メンバーになりました。前作はワイアットのソロが半分でしたが、今回はバンド・アルバムになっています。

 そうなると、前作ではほとんどの曲をワイアットと共作し、美しいピアノが随所で光っていたシンクレアの脱退の影響は大きいです。楽曲派だったシンクレアに対し、ジャズの素養が深い実験精神あふれるデイヴの正式加入は音の表情を随分変えています。

 また、ベースのビル・マコーミックのアイデアで、ミスター・キング・クリムゾンのロバート・フリップ御大がプロデューサーになっています。ビルによれば、「彼は素晴らしいやつだったが、この仕事には全く向いていなかった」そうです。まだお化粧していたイーノも参加しています。

 何でも、フリップは「すべてについての最終決定権を強く主張したんだ」そうです。一方、指図されることが大嫌いなロバート・ワイアットですが、この人は指図することも大嫌いだそうです。メンバーの好きにさせるというのが彼のポリシーです。制作現場が思いやられます。

 結果はアルバムを聴けばわかります。かなりの程度、キング・クリムゾンが入っています。ボーカルが違いますが、インスト曲などはまるでクリムゾンです。これはこれで面白いとは思うものの、前作のロマンチックな雰囲気を期待すると大いに外れます。

 しかし、ボーカルは実験的です。ワイアットの歌はいつもの通り飄々としています。加えて、今回は女声コーラスが入っています。女優のジュリー・クリスティーやワイアットの生涯の伴侶となるアルフレーダ・ベンジを含む三人組です。

 コーラスと言っても、てんでばらばらにおしゃべりしているところを、一つに編集して作り上げたものですが、それがこのアルバムの大きな魅力になっています。ボーカルへのワイアットのアプローチをはっきり示しています。

 一方、フリップ御大を前に怖気づいたギターのフィル・ミラーは、フリップのようなギターを弾いている部分があります。ただ、さすがにフリップ御大もギタリストです。後半はフィルの魅力がじわじわと湧き出てきます。

 実験精神あふれる作品ですけれども、このバンドはすぐに解散してしまいます。ロバート・ワイアットが、自分はリーダーの器じゃないと考えて一方的に解散を決めたということで、ビルやフィルは怒り心頭でしたが、これも歴史。不思議な位置取りのバンドになってしまいました。

Matching Mole's Little Red Record / Matching Mole (1972)

(Edit 2015/3/8)
(参照:"Different Every Time"Marcus O'dair)