$あれも聴きたいこれも聴きたい-由紀さおり 人生で初めて手に入れたレコードは、由紀さおりの「手紙」と渚ゆうこの「京都の恋」でした。町内の運動会の賞品だったんです。徒競走で1位になったくらいでシングル盤とはいえ、レコードをくれるなんて大盤振舞です。

 まあ、小学生への賞品としてふさわしいかどうかは意見が分かれるところかもしれません。しかも、当時、我が家にはレコード・プレイヤーがありませんでしたから、もらったものの死蔵してしまいました。

 しかし、人生初は初。私、この曲が大好きです。由紀さおりと言えば、間違いなくこの「手紙」です。ついでに渚ゆうこの方も大好きです。

 このアルバムは由紀さおりの五枚目のアルバムです。デビュー・アルバムが69年7月、このアルバムが71年2月、わずか1年半の間に5枚。実は71年にはこのアルバム以降4枚のアルバムが発売されましたから、あわせると9枚。もの凄いハイペースです。

 由紀さおりは幼い頃から童謡歌手としてお姉さんとともに活躍していて、歌謡界へのデビューも65年、17歳の時でした。歌謡曲歌手としてはぱっとしませんでしたが、69年に改名して再デビュー、「夜明けのスキャット」がミリオン・セラーとなって一躍スターになりました。

 歌詞がわずかしかないスキャット中心の曲なので、本人は際物扱いされているのではないかと疑心暗鬼だったそうですが、見事に5枚目のシングル「手紙」がオリコン1位を獲得して、その人気を不動のものとします。

 由紀さおりは、「手紙」の頃は23歳くらいです。このジャケットを見て頂くと、かなりビッチ系じゃないですか?童謡歌手、「夜明けのスキャット」と天使の歌声のイメージでしたが、改めてこのジャケットを見ながら、アルバムを聴いてみますと、かなりエロいです。

 たしかに、当時、私はまだ小学生でしたが、他の歌手に比べて、由紀さおりさんは、かなりお姉さまに見えたものです。小学生からみれば、熟女でした。黛ジュンと同い年ですが、由紀さんの方が相当歳上に思えたものです。でも、その分、それ以降もイメージが全然変わりませんでしたね。

 由紀さおりさんは、ピンク・マルティーニとのコラボレーションが海外で大ヒットして再度注目を集めています。歌がうまいですからね。綺麗な声なのですが、とてもムードがあります。歌謡曲らしい歌謡曲、歌謡曲の王道です。

 アルバムには、「手紙」と「生きがい」の二大ヒットを中心に全10曲。どれも歌謡曲の王道を行っています。バンドネオンを使った曲もあったり、少しだけアレンジも凝っていて、濃ゆいアルバムに仕上がっていて、なかなかのものです。一見の曲もあるのではないかと思いますが、そこは歌唱力でカバーでしょうか。

 「手紙」は文句なしの名曲です。なかにし礼さんの歌詞は凄いですね。よく歌われる情景ですが、♪何が悪いのか 今もわからない だれのせいなのか 今もわからない♪、は最高のフレーズでしょう。それにメロディーが素晴らしい。オリコン6週連続1位、70年代を代表する名曲です。

 「生きがい」はかわいらしいメロディーが全て。何だか聴いたことがあるメロディーのような気がしますが、ジャズ・ピアニストの渋谷毅さんのオリジナルです。これもいい歌です。

 ピンク・マルティーニに言われるまで、この時代の歌謡曲に素晴らしい曲が多いことを忘れていたなんて、日本人として恥ずかしいです。

手紙/生きがい 由紀さおりの華麗なる世界 / 由紀さおり (1971)