$あれも聴きたいこれも聴きたい-Debo Band エチオピアには行ったことはありませんが、アフリカの中ではとても親しく感じる国です。私は中学時代、陸上部で長距離走をやっていましたので、今でも長距離走を見るのが大好きです。そうなるとエチオピアは世界の中心ですよね。

 デボ・バンドの中心はサックスのダニー・メコネン。メコネンですよ。アベベもゲブレセラシエもいませんが、メコネン発見!エチオピアンな名前ですねえ。

 エチオピアは1960年代にポピュラー音楽の黄金時代を迎えました。エチオ・ジャズだとかエチオ・グルーヴなどと呼ばれ、アメリカのソウルやジャズの強い影響を受けたエチオピア独自の音楽だったということです。中心人物はムラトゥ・アスタトケ(発音、合ってますかね?)。

 ところが、この黄金時代は長くは続かず、74年のクーデターで王政が廃止されて、混乱の軍政を迎えると収束してしまいます。しかし、音楽の命はしぶとい。表舞台からは姿を消したものの、首都アジス・アベバでは脈々とエチオ・ジャズは生きながらえます。

 そんなエチオ・ジャズのエッセンスを、民俗音楽を勉強したエチオピア系のメコネンが形にしたのがこのデボ・バンドです。デボとはエチオピアの公用語アムハラ語で集団による努力を意味するそうです。その言葉通り、メコネンを中心に12人編成の大所帯となっています。

 バンド仲間は、エチオピア系の人ばかりではなく、白人もいますし、アコーディオンはアベさんという女性ですから、日系の人ではないでしょうか。それに楽器もエンビルタというエチオピアの笛も使っているものの、アコーディオンやスーザフォンなんていうものも混じっています。

 というわけで、何が何でもエチオ・グルーヴというわけではなく、バルカン風味もあれば、ユダヤ系東欧音楽クレツマー風味もあるハイブリッド型エチオ・グルーヴです。

 収められた楽曲は全部で11曲で、中にはエチオピアの伝統的な楽曲をアレンジしたものもあります。特にエチオピア歌謡とも言える曲では、まるで日本の演歌のようなこぶしの効いた歌唱が聴かれます。同じアフリカでもフェラのアフロ・ビートとは随分違いますが、それでも通底するところは感じられます。

 メコネンは、エチオピアから逃れてきた両親の子どもとして、スーダンで生まれました。彼はその後世界中を転々としますが、自分のことを常にエチオピア人であると考えていたそうです。そうして、このデボ・バンドを通じて初めてそれが彼にとってどういう意味があるのかを知ったということです。感動的な話ですね。

 デボ・バンドは、2006年に練習のためのバンドとして結成されて以来、20人を超える人びとが係ってきました。ボストンを中心に活動を続け、2009年にはエチオピア・ツアーも敢行しています。そんな彼らが満を持して放つデビュー・アルバムです。

 強靭なグルーヴに満ちていながら、エチオ歌謡の風味もあり、とても新鮮な音楽です。演奏している姿もとても楽しそうですね。決して政治的なグループではないですし、音楽の真の力強さを思い知らせてくれるバンドです。聴いているとわくわくします。

Debo Band / Debo Band (2012)