$あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa22
 マイケル・キャニヨンはイリノイ州を中心に10年間にわたって強盗を続けた男です。彼は強盗に入ると、被害者に浣腸をするという極悪非道の犯罪者です。本作品はキャニヨンを歌った名曲「イリノイの浣腸強盗」が初めてお目見えしたフランク・ザッパ先生のアルバムです。

 あいかわらず精力的な先生は1976年10月にワールド・ツアーに出かけていきます。そして12月には4日間にわたってニューヨークのパラディアムにてソールド・アウト・コンサートを行いました。本作品はその模様を収めた二枚組の傑作ライヴ・アルバムです。

 しかし、本作品の発表は1978年3月とずいぶん時間が経ってしまっています。レコード会社との確執のせいです。この時期、先生は4枚組超大作「レザー」を制作しました。しかし、ワーナー・ブラザーズはこのアルバムの発表を拒否してしまいます。

 それではと、先生はフォノグラムから「レザー」を発表する算段をつけてしまいます。この事態に怒ったワーナーは「レザー」を4組にばらして発売することを一方的に決めてしまいます。その第一弾として発表されたのが本作品「ライヴ・イン・ニューヨーク」というわけです。

 しかも、ワーナーは、本作品収録の「パンキーズ・ウィップス」に訴訟リスクを感じ、発売直後に曲を削除して出し直すという失態を演じます。アイドル人気の高いエンジェルのパンキー・メドウスへの変態的熱愛を延々と歌った歌でしたから。本人は気に入っていたそうですが。

 ここでのバンドは、前作ではジャケ写のみに登場していたキーボードのエディー・ジョブソン、ベースのパトリック・オハーン、ドラムにここのところの先生の右腕テリー・ボジオ、お馴染みルース・アンダーウッド、ギターとボーカルのレイ・ホワイトが中心です。

 この最強ともいえるロック・コンボに加えて、クリスマス後のコンサートではブレッカー・ブラザーズを含む総勢5名のホーン・セクションが参加しています。彼らの分厚いサウンドが花を添えていて、めくるめくステージが展開されています。かっこいいです。

 収録曲の中で最も有名なのは「ブラック・ぺージ」でしょう。もともとはドラム・ソロのために作曲された曲で、音符がぎっしりつまっていたため、楽譜を渡されたボジオが「真っ黒じゃないか」と叫んだことからタイトルがつけられたという曰く付きの楽曲です。

 ヴァレーズあたりを彷彿とさせる現代音楽風の楽曲ですが、ボジオのドラムですからロックも感じる不思議な作品です。この曲を他の楽器でも演奏できるようにアレンジした♪イージー・ティーネイジ・ニューヨーク・バージョン♪が「ブラック・ぺージ#2」です。これも面白い。

 他にも「ワン・サイズ・フィッツ・オール」をプロモートするために入れた名曲「ソファ」のホーン・バージョンや、タイトルとは裏腹にジョブソンの美しいバイオリンをフィーチャーした「口の中では出さないから」、ボジオの悪魔役がかわいい「おっぱいとビール」とか、名曲揃いです。

 「アンクル・ミート」時代のマザーズの室内楽的な感覚と、ジョージ・デュークがいた頃のブラックな感覚がうまく融合されたスタイルとなっていて、この時期のバンドもこれまた最高です。複雑な楽曲を見事に演奏仕切る腕前も見事なもの。腕達者揃いのいいバンドでした。

Zappa In New York / Frank Zappa (1978 DiscReet) #023

*2012年10月27日の記事を書き直しました。



Tracks:
(disc one)
01. Titties & Beer
02. Cruisin' For Burgers
03. I Promise Not To Come In Your Mouth
04. Pnky's Whips
05. Honey, Don't You Want A Man Like Me?
06. The Illinois Enema Bandit
(disc two)
01. I'm The Slime
02. Pound For A Brown
03. Manx Needs Women
04. The Black Page Drum Solo / Black Page #1
05. Big Leg Emma
06. Sofa
07. Black Page #2
08. The Torture Never Stops 拷問は果てしなく
09. The Purple Lagoon / Approximate

Personnel:
Frank Zappa : conductor, lead guitar, vocals
Ray White : rhythm guitar, vocals
Eddie Jobson : keyboards, violin, vocals
Patrick O'Hearn : bass, vocals
Terry Bozzio : drums, vocals
Ruth Underwood : percussion, synthesizer, various humanly impossible overdubs
Don Pardo : sophisticated narration
David Samuels : timpani, vibes
Randy Brecker : trumpet
Mike Brecker : tenor sax, flute
Lou Marini : alto sax, flute
Ronnie Cuber : bariton sax, clarinet
Tom Malone : trombone, trumpet, piccolo
***
John Bergamo : percussion overdubs
Ed Mann : percussion overdubs
Lou Anne Neill : osmotic harp overdub